中日“ミスター完投“大野雄大が阪神完封で克服した2つの鬼門
中日の大野雄大(32)が9月30日、甲子園で行われた阪神戦で2安打9奪三振無四球の完封でチームに今季甲子園初勝利をもたらして7勝目をマークした。完封は今季4度目で完投は8度目。巨人の菅野智之の3完投を大きく上回る“ミスター完投”は、「甲子園」、「屋外球場」という、これまで勝てなかった2つの”鬼門”を克服した。
「絶対オレで勝ったる!」
近本のセカンドゴロをさばいた阿部の送球がシエラのファーストミットに収まったことを確認すると大野は、ポンと一度、グローブを叩き、やっと笑顔を見せた。堂々の107球の2安打完封。二塁を踏ませなかった。 「野手のみなさんが良く守ってくれたのでこういう投球ができた。どんどんストライクゾーンで勝負できているから、球数も120(球)とか、130(球)とかいかずに最後まで投げ切れている。勝負できていることが(完封、完投に)つながっている」 ストライクを先行させ、テンポよく投げ切ったことが完封理由だと説明した。 実は、大野は、この日、2つの鬼門を克服している。ひとつは甲子園。2015年7月8日以来、五年越しに甲子園では勝てていなかったのである。 エースの甲子園鬼門につられるようにチームも今季は甲子園では7戦全敗。昨季から9連敗という相性の悪さだった。 「元々、嫌いなマウンドではないですし、嫌なイメージなかったんですが、勝てていない事実があって、それも試合前に知っていたので、なんとか今日は勝ちたいなと。チームも今年は甲子園で勝てていなかったので、絶対オレで勝ったると、マウンドに上がりました」
配球への工夫
そしてもうひとつの鬼門が屋外球場での勝利である。こちらも2017年9月20日のヤクルト戦(神宮)以来の勝利となった。 「それも情けない話なんですが、結局、(屋外球場で勝ていない)という事実があったということで、それもなんとか今日で止めようとマウンドに上がりました」 投手が勝てない理由は、チーム、打者との相性や、本人の調子など、様々な要素が複雑に絡みあってデータとして残っていくものだが、甲子園、屋外球場で勝てていなかった理由としては、マウンドの違い、球場に吹く風、マウンドから感じる風景からくる距離感、集中力の欠如などの要因も考えられる。 この日の大野は、鬼門を乗り越えるための配球に細心の工夫をしていた。 ひとまわり目は、自在に落とすツーシームを軸に変化球を主体に組み立てた。ストライクを先行させ、少ない球数でゴロを打たせた。立ち上がりから打者9人に7つのゴロアウトである。 ふたまわり目は、一転して、右打者の内角をストレートで強気に攻めた。ストレートを主体にした配球である。圧巻は、その始まりになった4回である。北條、大山を内角ストレートで連続の見逃しの三振に打ち取ったのだ。2人は共に、追い込まれてからは、第1打席のツーシームの残像が残っているため、裏をかかれた内角ストレートに反応できなかった。大野は4回からの6イニングで9三振を奪ったが、そのうち4つが見逃しの三振。いかに打者心理の裏をかいたかを物語っている。 チームも初回に先取点を奪うなど、エースの”鬼門克服”を援護。大野は、自らのバットでも、5回に近本の記録に残らないミスにも助けられ、タイムリー三塁打を放ち、9得点をバックに苦しくなる終盤も楽々乗り切った。 与田監督も左腕エースを絶賛した。 「今日はいい意味で脱力感があった。140キロ半ばくらいの球速の真っすぐでも非常に伸びを感じさせ、コースも低めに集まっていた。変化球も非常に有効だった。球数が少なかったので安心感があった。もう頼もしいのひと言。15試合で完投が8。これだけでもチームのためにリリーフピッチャーを休ませてくれて助かっている」 一昨年の監督就任と同時にチーム浮上のカギは、「大野の再生だ」と秋季キャンプから二人三脚でフォーム改造などの課題に取り組んできた。 チームは9年ぶりのAクラスを射程圏内に捉えた。3位の横浜DeNAまで1.5差、2位の阪神まで2.5差である。 大野もチームを代表して、こう言う。 「絶対にそこ(Aクラス)は、つかまいといけないところだと思いますし、Bクラスが続いていることを今年で終わらせないといけないと選手全員が思っています。テレビ越しであったり、球場に来ていただいているファンの方に、ひとつでも多くの勝利を届けたい」 残り32試合。 大野は、「たぶん(あと)5試合、投げれるはずなんで。全部勝つつもりでやっていきます」という計算をしている。中6日で回り、水曜日に投げていけば、次戦は7日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)。その後は阪神2試合、横浜DeNA2試合に投げることができる。 いずれもAクラスを争う2球団。大野の投球がAクラス入りのカギを握っている。 そして、もうひとつ大野が、その5試合で狙うのが個人タイトルである。開幕12連勝の“怪物”の菅野がいるが、この日で奪三振は115となり104の菅野との差をまた広げた。防御率は菅野が1.76で、大野が2.18。勝利数は菅野に5つ足りないので、最多タイトルは、全部勝っても他力本願で、ほぼ絶望的だが、まだ防御率と奪三振の可能性は残っている。