東伊豆・稲取の伝統「雛のつるし飾り」絶やさない 作り手高齢化で継承危機、養成に本腰 関係団体が講座
東伊豆町稲取地区に伝わる伝統工芸「雛(ひな)のつるし飾り」。日本三大つるし飾りの一つにも数えられ、毎年早春の関連行事には大勢の観光客が同町に足を運ぶが、近年は作り手の高齢化が顕著で、技術の伝承が喫緊の課題。手探りながら、関係団体が連携して継承に乗り出した。 10月中旬、稲取の複合施設「よりみち135」。町民が集まり、つるし飾りの制作に励んでいた。このイベントは稲取温泉旅館協同組合主催の継承講座。愛好団体のメンバーが講師を務め、組合加盟旅館の従業員や町民が受講している。11月まで、難易度に合わせた3クラスを断続的に開き、約50人が受講する。 「この地で観光に携わる者として伝統文化の魅力を来訪者に伝えるため、深い知識を身に付けたい」。こう話すのは旅館若女将の加藤央美さん(43)。毎年2月は「つるし飾り祭り」目的で宿が満室になる日も多く、講座には15人ほどの従業員と参加する。 講座を企画した組合担当者の村木友香さん(42)は「作り手が減り続け、このままでは継承が見通せない」と危機感を募らせる。つるし飾り祭りの展示物は新旧の作品を飾り続けている。期間中は土産品としての販売分も確保する必要があり、今のままでは将来的に供給不足が懸念される。趣味として親しんでもらえる町民を地道に増やすことで、継承の道を探る。 組合によると、つるし飾りの制作に携わっているのは50人ほどで、中心は70~80代。ピーク時からの減少は著しく、祭りが始まった30年ほど前に50代前後だった町民が柱を担っている。講師役の1人、斎藤美智子さん(82)は「伝統が途絶えてしまうのは寂しい。1人でも多くの人に体験してもらうことが伝承につながるはず」と願いを込める。 ■ 他の「三大」地域も技術継承に苦心 「三大つるし飾り」に数えられる他の都市でも後継者の不足が深刻な状況だ。関係者は品質の担保を課題の一つに挙げる。 福岡県柳川市の「さげもん」の関連イベント「柳川雛祭り」(2~4月)の展示品や販売品は、市内の女性団体が中心となって制作する。手芸店での定期的な教室などで技術継承を図っている。イベント実行委事務局の江上夏子さん(43)は「全て手作りなので手間がかかるし、技術も必要。家庭で飾る人も減っている」と現状を語る。子育てが落ち着いた層への普及を図っている。 制作体験を通じて2023年から伝承者の育成につなげているのが、山形県酒田市の「傘福」。既に作り手の確保にもつながっているが、継承目的で設立されたNPOの代表理事を務める岩間奏子さん(48)も「展示物として成り立つ技術を持つ人材の育成は難しい」と苦悩をのぞかせる。一方で、自宅での制作を少額でも収入につなげられる仕組みの必要性を説く。 ■ 雛のつるし飾り 起源は明確でないが、江戸時代後期には稲取地区に根付いていたとみられる。高価なひな人形の代わりに着物の端切れで作った人形でひな祭りを祝うようになったと伝わる。女児が誕生すると、ご祝儀代わりにつるし飾りが贈られたとされる。昭和中期から後期には一部の家庭で作られるだけだったが、平成になって有志が伝統工芸品に再び光を当てようと「雛のつるし飾りまつり」を企画。現在は1~3月にかけて地域の一大行事となった。稲取特産のキンメダイや干支(えと)などをかたどった作品が並ぶ。
静岡新聞社