「人間的に最低です」仕事のデキる部下が上司への“人格攻撃”で降格処分も…裁判所が「無効」と判断したワケ
「ご自分の保身のためだけに、お仕事されるんですね」 「最低な人間です」 これは部下のXさんが上司のY部長に送ったメールである。 業務拒否などもあり、会社はXさんを降格処分とした。これに納得できないXさんが提訴。 結果、裁判所は「Xさんと上司は関係が悪化しており、Xさんが精神疾患に罹患(りかん)していた」などとして「降格処分は重きに失する。差額の賃金を支払え」と判断し、Xさんが勝訴した。(東京高裁 R4.9.22) 以下、事件の詳細だ。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
■ 当事者 会社は、物流アウトソーシング業務、マタニティ市場のマーケティングなどを行っている。 Xさん(女性)は正社員で、メディア企画事業部で働いていた。同事業部は、主に4人体制であった。(Y部長、Xさん、あと2名) Xさんは仕事のデキる社員だったようである。入社して1年ほどたった頃には優秀社員表彰を受け、次長職に昇格した。 ■ 上司と衝突 Y部長は昼前に出勤し、早い時間に退社することが多かった。そのしわ寄せが部下にきていたのであろう。Xさんは「自分の業務量が多い」と感じていた。 そしてその不満を本人にぶつけ、役員(Z専務)にも抗議。Z専務には「Y部長と考え方・方針が違いすぎており、今後協調して業務をこなすことは困難である」「既存業務に追われており、私ともう1人の社員の2名体制では営業活動がままならない」などと窮状を訴えていた。 しかし、これといった改善がなされず、Xさんは不満を募らせていく。こうして、XさんとY部長の関係は悪化していった。 ■ 誹謗中傷メール 以下は、会社が降格処分を出す理由となったXさんの行動の一部だ。 ある日、Y部長が取引先に送信したメールにXさんが激怒し、Y部長へ下記メールを送信した。かなり感情的だが、居酒屋で同僚同士の口から出た上司の悪口ではなく、Y部長へ直接送信した内容であることから、相当ブチギレていた様子がうかがえる。 「何も状況がわかっていない状況で、その場しのぎのメールを送るの辞めて頂けませんか。内容を把握し、現状の配布状況を見て、お知らせすべき案件です。いつもそういう風に、都合よくしゃしゃり出てきて、肝心のクレーム処理の時だけ、人任せにするのは、人間的に最低です。私がメールしていないということは、今日お知らせする必要がないからです。本当に、部のお考えではなく、ご自分の保身のためだけに、お仕事されるんですね。最低な人間です」(原文ママ) ちなみに、この頃からXさんは、Y部長とのトラブルなどが原因で精神に不調を来していた。 ■ 新規開拓を拒否 下記は、Xさんが新規開拓を拒否したときのY部長との会話である。録音していたY部長も、かなり“したたか”なのかもしれない。 Y部長 「新規開拓は頑張ってくださいよ」 Xさん 「私たち、やりませんよ」 Y部長 「業務命令です」 Xさん 「都合がいいこと言わないでくださいよ」 ーーその後のやり取りの中でーー Xさん 「いいえ、私はしませんよ。全くしませんよ」 「いえ、やりません。やりません!」 一連の会話の中で、Xさんは「業務過多である」「仕事をしないY部長と一緒に仕事をするのが嫌である」「Y部長のことを見るのも嫌である」旨述べている。 ■ コンプライアンス委員会 その後、コンプライアンス委員会が開かれ、委員がXさんへ事実確認を行った。 ■ 降格処分 コンプライアンス委員会から約1週間後、Xさんに「次長職を解く」との降格処分が出された。この処分には減給が伴っていた(35万円 → 28万円)。 ■ 解雇 降格処分から約6か月後、Xさんは解雇された。これに納得できないXさんは労働審判を起こし、その結果「解雇は無効(Xさんは社員としての地位を有する)」との和解が成立した。 今回の裁判でXさんは「降格処分は無効。賃金を支払え。慰謝料も支払え」と主張している。