AI普及拡大によるHDD市場の今後の見通し
クラウドサービスやAI(人工知能)の普及拡大とともに、膨大なデータを保存するストレージの重要性が高まっている。世界各地でデータセンターの建設ラッシュが進み、そこに格納されるストレージサーバー向けHDD(ハード・ディスク・ドライブ)の需要も拡大の一途をたどる。HDD大手の米シーゲイトは、東京都内で会見を開き、今後のHDD市場の見通しと事業戦略について説明した。 同社の2025年度第1四半期(24年7~9月)における大容量ストレージ出荷量は、前年同期比23%増となる128エクサバイトだった。特に日本では、政府主導で進められているガバメントクラウドの整備を背景に大規模ストレージの需要が拡大。エッジデータセンターを含むエッジインフラの市場は、27年までに年率約13%成長を見込んでおり、同社としても注力していく。 AIの登場で生成されるデータも増大 IDCの調べによると、世界のデータ量は23年から28年の間に3倍となる394ゼタバイト(ゼタはエクサの1000倍)に増加すると予想されている。高精細の動画や画像などのコンテンツは大容量ファイルを生み出し、AIがデータの複製を加速させることで、生み出されるデータはさらに増加する。 日本法人の新妻太代表取締役社長は「世界は、これまでにない規模でデータを生成している。その一方、利用可能なデータストレージの整備は、データ生成の増加には追い付いていない。このギャップを埋めるために積極的な容量計画を実行し、AIの成長を支える規模と信頼性を確保していくことが重要。AIがあらゆる場所に搭載されれば、同時にストレージもあらゆる場所で必要となる」と話す。 HAMR技術を組込んだMozaic 3+ こうした課題に対し、同社では大容量ストレージ「Mozaic 3+」を提案している。同製品は従来のHDD製品と比べ、同じ設置面積内でのデータセンター容量が3倍、テラバイト当たりの電力効率が2.6倍、テラバイト当たりのカーボン排出量も3.5倍削減するなどの効果を実現する。 同製品には、先進的な熱補助型磁気記録「HAMR」が組み込まれている。HAMRは、記録時にレーザー光でディスクを局所的に瞬間加熱することで、高密度の記録を可能にする技術。この技術により、HDD1台当たりの記録容量を2倍以上に高めることができる。 AIの進化をHDDが支えている AIデータは、ソースデータの収集からモデルのトレーニング、コンテンツの生成・保存、データの保護・再利用を繰り返し、循環のサイクルで流れ続ける。この中でAIの可能性をより高めていくためには、ストレージの技術は欠かせない。大規模データセンターでは、ほとんどのAIデータが大容量オブジェクトストレージに保存されている。また、大規模データセンターで使用されている記録メディアとして、HDDは約90%を占める。同社では、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)よりもコストメリットに優れ、AIに最適化されたメディアとしてMozaic 3+の提案に注力していく。 新妻社長は「価値を生み出すデータを長期保存し、AIの成長を後押しするためにもHDDは必要。データセンターの課題でもある消費電力の問題に対しても、SSDと比べてテラバイト当たりの消費電力は4分の1と課題解決に貢献できる」と話す。
電波新聞社