困惑?感謝?ハリルが反論会見で読み上げた槙野智章の激励文の真意とは
2015年3月に船出したハリルジャパンで、槙野は常に招集されてきた。しかし、コンスタントにピッチに立ってきたわけではなく、センターバックと左サイドバックの控えに甘んじてきた。 しかも、顔を合わせるたびに、ピックアップされたプレー映像が収められたDVDをもとに「ダメ出し」を連発された。30歳を目前にして、積み重ねてきたすべてを否定される。精神的に落ち込んでも不思議ではない状況で、槙野は必死に己を奮い立たせながら食らいついてきた。 「まったく褒められないのに、それでも代表に呼んでくれて、僕を成長させたいと監督が怒ってくれることが、僕自身を『もっと変わらなきゃいけない』という気持ちにさせてくれる。日本代表に僕は必要なんだ、というメッセージの裏返しだと感じるからこそ、感謝の気持ちをプレーで返さないといけない」 ハリルホジッチ氏は就任当初から、槙野のポジティブな思考回路とメンタルの強さ、そして日本人選手のなかでトップレベルにあるフィジカルの強さに期待をかけてきた。そして、2年半近くに及んだ根気強い指導の成果として、世界と対峙するうえで順守すべき3ヵ条が叩き込まれた。 それは自軍のゴール前でボールをもつ相手に対して【1】前を向かせない【2】自分たちのゴールから遠ざける【3】不要なファウルを犯さない――であり、自然と実践できるようになった昨秋以降の国際Aマッチで、槙野は吉田麻也(サウサンプトン)とセンターバックを組むファーストチョイスとなった。 「いままで育ててきてもらったし、もちろん浦和でのプレーや指導者の方のおかげもありますけど、プレーの考え方も大きく変われたのは、ハリルさんの厳しい言葉があってこそだと思うので。感謝していますし、だからこそ一緒にW杯に、という思いはすごく強かった」 胸中に抱く偽らざる思いを吐露するとともに、すでに西野朗監督による新体制が船出し、コロンビア代表とのグループリーグ初戦まで残り2ヵ月を切っている現状にもしっかりと目を向ける。 「日本のためにW杯でしっかりと戦う、というところは変わらないので」 来月で31歳になる槙野は、W杯の舞台に立ったことがない。南アフリカ、ブラジル両大会は代表候補に名前を連ねながら、W杯イヤーになると代表との距離が開いてしまった。 「W杯は夢ですけど、夢のままで終わらせたくない。(年齢的に)最後のチャンスだと思っているので」 浦和での戦いの先に待つロシアの地を見すえながら、W杯へのカウントダウンとともに、槙野は日の丸を背負う覚悟と責任を強めていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)