奇妙な内閣支持率の動きを生み出す「緊急世論調査」 政治学者・菅原琢
ここ2か月ほど、内閣支持率の動きが激しく、かつ複雑になっている。そのため、誤解や間違った解釈も多くなるのも仕方ないと言える。だが、中にはひどいものもある。 たとえば日刊ゲンダイは「不自然な世論調査……朝日新聞は安倍政権に魂を売ったのか」という記事をネットでも配信している(※1)。この記事から内閣支持率に関する議論のみ取り上げると、10月25・26日に実施された朝日新聞世論調査の内閣支持率は前回調査に比較して微増となっているが、読売、日経など他のメディアでは大幅に低下していることから、これは「朝日が安倍政権寄りに舵を切り始めたサイン」であるとしている。 だが、世論調査のデータを丁寧に追えば、このような解釈は成り立たない。数字が政権へのすり寄りを示すとする陰謀論がどうしようにもないことは言うまでもないのでここでは論じない。ここでは、朝日の数字の下落が不自然という指摘について確認しておきたい。
図1は、8月以降の新聞社、通信社の世論調査の動きを示している(※2) 。記事で指摘された微増後の朝日の数字のみここに入れているが、同時期について見ると、確かに他紙の動きに比べて奇妙に見える。他紙では低下傾向がある一方で、朝日の49%だけ前回よりも上がっている。 しかし、この図の他の部分を見ると、他紙の動きも随分と奇妙である。特に、読売、日経の9月初旬の調査の数字の上がり方は異常である。これは、以前に書いたように、改造内閣についての緊急調査の数字である(※3) 。 詳細情報公開前に書いた以前の記事では、このときの異常な上昇は質問文の改造の疑いがあると述べた。これは、以前の改造時調査から推測したものだが、その後確認したところ、公開された調査の詳細で質問文の改造を報告していたのは共同通信のみであった。 筆者自身は、普段の数字とあまりにも違いすぎることから、質問文の改造を報告していない、あるいは質問の前の冒頭のあいさつで改造について言及しているなど、普段の調査とは異なる何かがあったのではと疑っている。しかし、そうした隠れた事実を探らなくても、こうした数字の異常の要因として指摘できることがある。それは、極端な上昇を示した2社がいずれも緊急世論調査であったということである。