奇妙な内閣支持率の動きを生み出す「緊急世論調査」 政治学者・菅原琢
多くのメディアの普段の世論調査は、月に1回程度、週末にかかる2、3日間に行われる。しかし、何らかの出来事に応じて行われる緊急世論調査では、普段とは異なる条件で調査が行われることになる。調査期間が短い、平日に行われる、回答者数が少ない、などである。 普段と異なる段取りや条件で行われる結果、数字は普段とは比較可能なものとはならず、往々にして変動が大きく出ることになる。図では、緊急調査にあたるものを黒い印で示しているが、毎日新聞の改造時調査を除き、変動が大きくなっていることがわかるだろう。 また、冒頭の記事で自然とされた読売や日経の数字の動きは、改造時に大きく上がったものが元に戻っただけと見ることもできる。逆に、朝日は改造時に緊急ではなく定例調査を行っており、数字の上昇がマイルドだった分、2閣僚辞任時の緊急調査が必要以上に他に比べて浮いて見えるのである。 仮に、改造時に急上昇しなかった毎日新聞やFNN・産経新聞が緊急調査を行っていたら、朝日同様に「不自然」な動きを見せるかもしれない。だが、そちらのほうがむしろ「自然」と考えることができるだろう。もっとも、緊急調査を行うこと自体、比較の難しい数字を作り出すことを意味しているわけで、朝日新聞の49%という数字が「正解」というわけではないことは強調しておきたい。
さて、図2は、図1のデータの始点と終点のみ取り上げたものである。言い換えれば、9月を中心とする複雑な数字の動きを無視し、8月の調査と現時点で最新の定例の調査結果を比較したものだが、総じてどの社も変化が小さいということがわかる。最も数字に差がある読売新聞でも4ポイントしか違わない。緊急調査や内閣改造で内閣支持率の数字は大きく変動したが、そうしたイレギュラーを除いてしまえば、この間の世論は大して変化していなかったのではないかと想像することができる。 もちろんこの図は、改造時に世論が内閣支持に傾き、2閣僚辞任で支持が離れたというストーリーを否定するものではない。しかし図1と図2を比較すれば、世論の動向を理解する際に政治部の思惑が充満した緊急調査は邪魔でしかないことがよくわかるだろう。緊急調査が全く参考にならないというわけではないが、これを無視して同じ条件の定例調査同士を比較していくことは、世論の動きを追うのに有効なテクニックのひとつである。 ---------- 菅原琢(すがわら・たく) 政治学者、主著に『世論の曲解』(光文社新書)。「政治」の章を担当した『平成史:増補新版』(小熊英二編著、河出ブックス)好評発売中。 ※1 ※2 データは、「giinsenkyo @ ウィキ」掲載のデータを用いた。まとめられている方々に感謝申し上げたい。 ※3