ビル防火改修「増築スペースない」 支援事業の実績2棟のみ 大阪・北新地放火事件3年
京都市で同事業を担当する建築安全推進課の中島吾郎課長は「火災対策としての改修は、耐震ほどには必要性があまり浸透していない。ビルオーナーの心理的なハードルを下げるためには、丁寧な情報提供が大切だ」と話す。
今年9月には、オーナー向けのセミナーを開催し、専門家を交えて改修の必要性をアピールした。中島課長は「『既存不適格』は違法ではないが、さらに安全にすることはオーナーにとってもメリットはある」と呼びかけている。
■ガソリン対策に消火剤シート、進む技術開発
ガソリンは揮発性が高く、放火に用いられると一瞬で爆発的に燃焼し、甚大な被害を招く。大阪・北新地の事件では26人、令和元年の京都アニメーション放火殺人事件では36人が死亡した。これらの事件の教訓を踏まえ、官民で引火を抑える資機材や技術開発が進められている。
総務省消防庁は令和4年度にガソリン火災対策の研究を公募。防災機器メーカー「ヤマトプロテック」(東京都港区)の研究案を同7月に採択した。
同社の「ケースモークパネル」と呼ばれるシート状の消火剤をマットや壁に組み込み、ガソリン着火と同時に消火を開始するという内容だ。
北新地の事件では、ガソリンがまかれた現場クリニックの待合室の温度が、約20秒で500度近くまで急上昇したとみられる。
通常の水やスプリンクラーによる消火では十分に対抗できないガソリン火災を抑えるには、高熱によって不安定になった酸素、水素が連続して反応する燃焼のサイクル自体を断ち切る必要がある。
ケースモークパネルは、300度を超えると化学反応により自動的にカリウム化合物を含むエアロゾル(微粒子)を放出。カリウムは不安定になった酸素、水素と結びつき、燃焼の連鎖反応を断ち切るという。
同社中央研究所の久保田哲史所長は「壁や天井にケースモークパネルを貼っていれば大きく避難の時間を稼げるのでは」と今後の活用に期待している。(木津悠介)
「安全と負担のバランス考慮を」元東京理科大教授・小林恭一氏(消防防災行政学)