ビル防火改修「増築スペースない」 支援事業の実績2棟のみ 大阪・北新地放火事件3年
ガソリン放火により26人が犠牲になった令和3年12月の大阪・北新地のクリニック放火殺人事件を受け、国は避難経路確保のため、建物改修費用を補助する事業を始めたが、事件から3年が経過しても利用はほとんど広がっていない。そもそも既存建築物では増築のスペースが不足し、オーナーやテナントの理解も得られにくい。当事者意識を喚起し、具体的な取り組みにつなげていくには課題も多い。 【動画も】北新地放火 どんな事件だったのか ■現場ビルは「既存不適格」 事件の現場となった北新地の8階建てのビルは昭和45年の建築で、避難経路となる階段は1カ所しかなかった。建築基準法施行令は6階以上の建物に、地上につながる階段を2つ以上設置するよう義務付けているが、この規定は同49年に追加されたもの。建築当時は合法だったが現行規定には適合しない、現場はいわゆる「既存不適格」のビルだった。 国土交通省が事件後の令和5年度から始めた「建築物火災安全改修事業」はこうした既存不適格ビルなどを対象とし、新たな階段や退避区画を増設すれば、国と自治体が費用の3分の2を補助する仕組み。 得られた成果や知見を国に報告する「モデル事業」の枠も設けられ、これに選ばれれば、工事にかかる費用は国から全額が補助される。 ■階段1カ所の「特一」建築物は約3万件 北新地の火災現場と同様に階段が1カ所しかない建物「特定一階段等防火対象物(特一)」は、全国に約3万件(4年2月時点)もある。 もっとも国交省によれば、現在この事業に参加しているのは大阪、京都、堺、福岡の4市のみ(堺、福岡は今年度から)。産経新聞がこれら4市に取材したところ、現時点で実際に補助交付に至ったのは、大阪市北区と京都市中京区のビル計2棟しかなかった。 利用が進まない現状について、各市の担当者は「補助が出るといっても営業の負担となり、テナントの合意を得られにくい」「そもそも、増設のスペースがない」といった理由を挙げる。小規模な雑居ビルでは、改修に伴うテナントへの休業補償の負担もネックになっているという。 堺市では、対象となるビルにダイレクトメールを送ったり、消防の検査に担当者が同行し、制度を紹介したりしているが、補助の交付決定までには至っていない。