「1日500円で十分豊かに暮らせる」廃村で自給自足、サバイバル登山家・服部文祥の“倫理的”生活術
――「エシカルな生活」という言葉から、想像することは? 「やはり究極は自給自足でしょう。サバイバル登山以外にも僕は世界を旅してきましたが、選択肢なく自力で生活を営んでいる人たち、生態系に近いところで環境に寄り添って生きている人たちを見てきました。そして、そんな人たちをとてもかっこいいと思った。 だから僕も、そういうプリミティブ(原始的)な暮らしをする彼らに対して恥ずかしくない生活をできるだけしたい。2023年夏は猛烈な暑さが続き、気候変動問題を強く意識させられましたが、いずれにしても自然環境に対する責任を放置して逃げ切るつもりはありません。ひどいままの状態で次世代に託そうとせず、目を背けずに向き合っていきたいと思っています」 ――実際にご自宅で自給自足を心がけていると聞きます。 「庭にはミカンやハッサク、梅やタケノコ、柿の木などが生え、柿はこの季節、干し柿にしています。菜園もあるし、ニワトリは放し飼いにしている。自給自足するにあたりニワトリは生活の軸になります。家庭で出た生ごみを食べてくれて、それが卵に変わる。 冬は基本的に薪ストーブだけで十分に暖をとれます。近隣の家が煙を気にせずにいてくれるからできるというのはありますが……」 ――2019年からは電気やガス、水道の来ない廃村の古民家を手に入れ、2拠点生活をしているとか。 「そうですね。向こうに行ったら化石燃料はほぼ使わない。たき火に火をつけるライターくらいですかね。消費と経済活動から離れて、自分の頭と体を動かして生活を完結させるのは楽しいですよ。 水道は山の水を引いて、電気はソーラーパネルとバッテリーを使う。電子レンジや炊飯器、冷蔵庫もないので、パネル2枚で十分まかなえますね。冷凍庫が必要ならあと2枚はいるかもしれない。 基本、明るくなったら起きます。チャイを飲みながら原稿を書き、合間に朝食を食べ、昼から夕方までは畑作業や燃料集めなどを含む野良仕事全般をします。夏だったら午後4時、5時、冬だったら午後3時、4時くらいまで。暗くなる前に杉の葉や枝、薪などの燃料を使ってお風呂を沸かし、文化釜で米を炊き始め、米が炊けたら蒸らしながら、畑の野菜を使って野菜炒めをつくる。冬には軒先にぶら下げてあるシカの肉を削ぎ落として、おかずに入れます」