「1日500円で十分豊かに暮らせる」廃村で自給自足、サバイバル登山家・服部文祥の“倫理的”生活術
「本気でエシカルな生活に取り組もうとしたら、面倒くさいですよ。自分で薪を集めて、切りそろえて、状況によっては乾燥させないといけない。大雨が降れば自前の水道は止まってしまう。 でも、その面倒くささそのものがやっぱり生きることだから。おっくうなことを面倒くさいとやめていったとしても、息をするのとご飯を咀嚼(そしゃく)し、飲み込むことはやめないでしょう? それって気持ちがいいからだと思うんですよ。薪を集める、水道を自力で管理する、それって心が弾むものなんだと、みんな意識できるといいですが」 ――そのように思考を変えるのは、一筋縄ではいかなそうです。 「それは、人が文明社会に生きていく限りは経済と無関係に生活できないものだと思い込んで、視野が狭くなっているからでしょう。頭と手足を駆使して、身の回りのことをできるだけ自分で解決する生活を体験すれば、そんなのは偏った選択肢の一つにすぎないとわかるはずです。 庭の木になっている柿に目もくれず、スーパーで外国産のフルーツを買う。高級車を手に入れて乗り回す。そんなことのために満員電車に押し込まれて出社して夜遅くまで残業する。それって本当に幸せですか。 ナツが教えてくれますよ。犬は自分の足で歩き続けるのが当たり前だし、食べ物はその辺のものでいいし、荷物も持っていない。でも、その瞬間をしっかりと楽しんで生きています」
――意識が変われば、モノの買い方や捉え方も変わってくる気もします。 「エコが提唱される他方で、実際には農薬まみれの100円のキャベツが平気で買われ、有機無農薬栽培でつくった200円のキャベツが売れ残っている現実があります。 経済効率がよく安いものを支持することは、きちんとした方法で栽培したキャベツを間接的に否定することになる。そうすると真面目にキャベツをつくる人がいなくなり、エシカルな消費をしようにもできなくなってしまいます。 安くて体に悪いものを買ってお金をセーブできても、不健康になれば後々医療費を払うことになるから、結果的には不効率だと思うのですが。 環境への配慮を心がける人は以前よりも増えてはいるのでしょうが、本気で倫理的に生きていこうとするなら、もっとみんなで考えた方が良いと思いますね。売る方は売る方で誠実さが求められるし、買う方は買う方で、消費が世間に対する評価となり、社会を動かす大事な要素になると、より意識するべきではないかと思います」
【服部 文祥(はっとり ぶんしょう)プロフィール】 1969年、神奈川県生まれ。K2登頂や冬の黒部横断などを経験したあと、装備を切りつめ食糧を現地調達するサバイバル登山を始める。2019年より関東近郊の里山にある廃村の古民家を手にいれ「脱経済成長」をテーマにした暮らしを開始。近著に「お金に頼らず生きたい君へ:廃村『自力』生活記」(河出書房新社)、「北海道犬旅サバイバル」(みすず書房)、「山旅犬のナツ」(河出書房新社)など。 (取材・文/森田浩明)
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