「1日500円で十分豊かに暮らせる」廃村で自給自足、サバイバル登山家・服部文祥の“倫理的”生活術
――シカも狩猟で捕獲する? 「はい。狩猟期間中は一日のスケジュールが変わり、現地に着いたらその日から(愛犬の)ナツと一緒にシカを捕獲に行きます。獲れたら――まあ、大抵獲れますが――解体と食べることが生活に加わる。 ここ3、4年は鉄砲を使わずとも、ナツだけでシカを獲ることが時々できるようになりました。自分の体重の5、6倍もあるシカでも追い詰めて、ワンワンほえて僕を呼ぶ。『親分、止めましたよ』って。それから僕が追いついて、木の棒や石でたたいてとどめを刺す。1人や2人分の食料なら、シカ1頭で2週間分は余裕で持ちますね」
1日500円で十分豊かに暮らせる
――廃村での生活には、あまりお金がいらないように思えます。 「おいしいごはんと納豆は食べたいし、牛乳も飲みたい(笑)。とはいえ廃村の自給生活は、1日500円もあれば十分豊かに暮らせるんじゃないですかね。米も自分で作れればいいのですが、品種改良されていて、いまはトラクターを使わないと難しい。ガソリンを使うし、それだと自力の生活という軸がぶれてしまう。完全な自給自足には、まだまだ課題が多いです」 ――近年では、お金を持たずに長期の旅行をしているとのことですが。 「今秋はナツと一緒に39日間、北海道を旅しました。予定ルート上の2カ所にデポ(補給地点)を設置し、生米6キロと砂糖1キロと塩500グラム、あとは鉄砲と弾丸と釣りざお、その他もろもろを持って歩き始めました。おかずは基本、現地調達です。ナツのえさは9割以上がシカでした。 無銭の理由は、大規模な荒野が日本にはもうないから。だったら現金もカードも持たずに家を離れたら、周囲が荒野になるんじゃないかという思いで始めました。完全な無人地帯とはいきませんが、荒野的な要素はだいぶ増えるし、面白い。 夜は、ほとんど野宿で過ごします。野営地ではたき火をしますが、たまに寄る番屋や山小屋にカセットコンロが置いてあって炊事をすると、改めて化石燃料のすごさに驚きます。ガス缶1本で丸1日、朝飯から夕飯まで数人分をまかなえてしまう。同じサイズの薪なら20分程度で燃え尽きてしまうのに。そりゃみんな化石燃料に飛びつくだろうなって。楽だし、しかも安いでしょう」