トランプvs習近平・プーチン・金正恩という悪夢、ウクライナ停戦の次は台湾海峡めぐる戦争リスクが急上昇
■ トランプの台湾接近を警戒する習近平 ロシア・ウクライナ戦争が停戦になることは喜ばしい半面、その分、インド太平洋の米中対立がより先鋭化し、特に台湾海峡をめぐる戦争リスクが一層高まることは、日本などにとっては、決してうれしいことではない。だが、こうした危機はうまくしのぐことによって、日本にとっても台湾にとってもチャンスとなるかもしれない。 中国にとって、一番の懸念は、トランプ政権任期中に、米台関係がある種の一線を突破して、台湾が国際社会における承認を再び勝ち取るための後押しをすることだ。 習近平は、蔡英文が総統になった2016年、やはり米大統領選を勝利したトランプが、数十年来の慣例を破り、蔡英文に電話して「プレジデント(大統領、総統)」と呼び掛けたことを覚えているはずだ。トランプの対台湾政策に関して非常に警戒している。思えば、米台急接近は第1次トランプ政権からスタートしたのだ。 ましてや台湾の今の総統は頼清徳であり、彼は新二国論や祖国論を打ち出して台湾の国際社会における国家としての認証を強く求めている。同時に、米国からの武器購入にも積極的で、中国との戦争準備、国防強化こそが最大の戦争回避の方法であるという主張をして、戦争を恐れる様子がない。 そして、習近平は台湾包囲型の軍事演習などを繰り返し台湾の頼清徳政権を軍事恫喝しているが、その恫喝が効果を得られないと気付いたとき、習近平がどのような態度に出るか、それに対してトランプがどのような態度を見せるかによって、台湾海峡の風景は一変する可能性がある。
■ 日本の外交力に期待したいが、今の政権にその力は? 台湾政治分析に定評のある小笠原欣幸・東京外大教授は東洋経済への寄稿文で、トランプが「半導体ビジネスが台湾に盗まれた」「(米国に守ってほしいなら台湾は)保護費を払え」といった台湾軽視の発言を繰り返してきたことを指摘し、それが台湾に根強くある「疑米論」が広がりかねない、と警鐘を鳴らす。 トランプ政権1期目には台湾通のスタッフが多くいたが、2期目には当時のメンバーはおらず、トランプの台湾理解は未知数、台湾への姿勢もまだ分からない。トランプの気ままな発言次第では、米国と台湾の信頼関係が一気に崩れることもあるかもしれない。中国は当然、それを狙って世論誘導を仕掛けてくる。 袁紅冰の論を信用するなら、中国は2025年から2027年を台湾問題解決の「窓口期間」と表現しているそうだ。ウィンドウピリオドと言えば医学用語で、実際、感染していても検査で抗体や病原体を検出できない空白期間をさす。 中国は台湾を武力統一するつもりなのか、できるのか、不確定で曖昧な期間ということだろうか。もっともそれは、台湾海峡の戦争リスクが高まり、皆が緊張する時期にあたるだろう。 この状況をうまくしのぐには、米国と日本と台湾の外交的・経済的、そして軍事的協力が重要だと考えている。日本にも台湾にも、トランプに対する不信感はかなりあるとは思うが、影響力ある発言とそれを実行に移すパワーをもった米国大統領であることは間違いない。 トランプ政権とうまく連動できれば、日本と台湾が戦争を回避しつつ、新たな国際社会の枠組みを再構築する中で、新しいステージに登ることも不可能ではないだろう。 問題は、今の日本首相、内閣にそうした巧妙でパワーのある外交が可能かどうかではあるが。 福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
福島 香織