繁栄支える巨額の放映権料、スタジアム転用や新ビジネスで収益源を多角化【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑨】
トットナムのスタジアムは最新の音響機器を備え、アーティストの歌声や観客の声援がこだまするように設計されている。ビヨンセのほか、レディー・ガガやガンズ・アンド・ローゼズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズといった世界的なミュージシャンの招致に成功した。欧州でファン拡大を狙うアメリカンフットボール(NFL)とも連携し、NFL用のピッチやロッカールームも備える。 ▽草サッカーやスタジアムツアー トットナムの2022~23年シーズンの収入は前期比24%増の5億4960万ポンドと、初めて5億ポンドの大台を超えた。10年前と比べると4倍近い規模に膨らみ、放映権が中心の「テレビ・メディア事業」が収入の中で占める割合は3割を切った。プレミアリーグに所属する全20クラブの全体では約5割で、トットナムの収益源の多角化がいかに進んでいるかを示す結果となった。 スタジアムを活用して収益源を広げようと知恵を絞るのは他のクラブも同様だ。日本代表の三笘薫が所属するブライトンは、シーズンオフに本拠地で草サッカーを楽しめるサービスを提供する。多くのクラブは連日スタジアムツアーを企画し、往年の名選手と交流できる催しも行う。マンチェスター・シティーはソニーグループと連携し、仮想空間でファンが交流できるサービスを開発中だ。
監査法人のデロイトは、欧州のサッカークラブの財務状況を分析したリポートで「収入源を多様化することで、(経営環境の)急速な変化や進化に耐えうる高い財務的安定性を得られる」と指摘。ビジネスの多角化に成功すれば、各クラブに財政健全化を促すリーグの規則への耐性が強まり、外部からの投資などを受けやすくなると言及した。 ▽レプリカ販売という新ビジネス 3本目の柱となるのが、ユニホームの胸元にロゴを飾るスポンサー企業との契約料だ。ユニホームを模したシャツは「レプリカ」と呼ばれ、この販売も収入を支えている。レプリカの語源はイタリア語の「繰り返し」という意味で、美術作品や工業品などの複製を指す。ファンはレプリカが流行する以前、「ブッチャーズコート」にクラブのロゴなどのワッペンを縫い付けて応援服を自作していたが、今では多くのサポーターがレプリカを着てスタジアムに向かう。 この分野でいち早く商機を見いだしたのがイギリスのアパレルメーカー、アンブロだった。1959年、まず幼児向けの「アンブロセット」を売り出した。さらにレプリカが普及する流れを決定づけたのが同業のアドミラルだった。アドミラルは「提督」を意味する。第1次世界大戦が始まった1914年にイギリス海軍に納入するスポーツウエアの製造を始め、サッカーやラグビーといったスポーツの分野に進出していった。