繁栄支える巨額の放映権料、スタジアム転用や新ビジネスで収益源を多角化【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑨】
スタジアム経営で成功したクラブの代表的存在が、北ロンドンを拠点とするトットナムだ。10億ポンド(当時のレートで約1400億円)を投じ、旧スタジアムのホワイト・ハート・レーンを2019年に一新。敷地面積を2倍に拡大し、収容人数を約3万6000人から約6万3000人へと大幅に増やした。西ロンドンを拠点とするチェルシーの本拠地の収容力は約4万人で、1試合当たり数億円のチケット収入差が生まれる計算になる。 ゴールラインと同じ65メートルと「欧州最長」の長さをうたう飲食店「ゴールライン・バー」が設けられ、バンドの生演奏が場を盛り上げる。内部を快適なスペースに変えたことでファンは長時間滞在するようになり、イギリスメディアによると、スタジアムでファンが支出する金額は2ポンド未満だったが、16ポンドに増えたという。ロンドンに住むトットナム一筋というファンのジェームス・バーキルさん(35)は「たくさんの食事メニューがあり、スタジアムで醸造された『地ビール』も楽しめる。雰囲気は試合前から最高だ」と語る。
▽シーズンオフにはサッカー場がライブ会場に プレミアリーグは例年8月に開幕し、翌年5月にシーズンを終える。3カ月にわたるオフの期間にどれだけスタジアムを活用できるかでクラブ間の収入に差が出る。トットナムが新スタジアムの建設に当たり、収益力を高めるために力を入れたのが多機能化だった。シーズン終了後、リーグ戦の舞台となったピッチは三つに分割され、南側のスタンド下部にスライドして収納される。代わりに登場するのが音楽ライブの会場だ。 2023年6月、スタジアムではプレミアリーグの試合ではあまり見かけない華やかな服装に着飾った若い女性らが合唱していた。お目当ては音楽界のスーパースターのビヨンセ。出産を経て久々に敢行した世界ツアーで、数ある選択肢の中からロンドンのライブ会場にトットナムのスタジアムを選んだ。「クレイジー・イン・ラブ」などの人気曲を歌い上げ、最終盤で光輝く馬にまたがりながら宙を飛ぶ姿を見せると、観客のボルテージは最高潮を迎えた。