台風で水没の道 車中で「妻がおぼれかけてる」 見つけた中学生は
台風に伴う大雨で水没した車から女性を救助した親子3人に12月25日、宮崎県警高岡署から感謝状が贈呈された。「何も考えずに体が動いていた」。親子は、助けを求められてから救い出すまでの状況を振り返った。 【写真】びしょびしょの4歳児、中学生は見過ごさなかった 台風10号が接近していた8月28日午後1時40分ごろ、建設会社経営の有村英敏さん(52)=宮崎市高岡町=は、県から委託された道路パトロールに出かけるところだった。一緒に行きたいという長女の優月(ゆづき)さん(15)=高岡中3年=と長男の敏稀(としき)さん(13)=同1年=を車に乗せ、自宅から国道に出ようとした時だった。 「おじさんが水の中にいる」。優月さんと敏稀さんが、胸まで水につかってずぶぬれになっている人をほぼ同時に見つけた。荷物を持って両腕を上げて立つ近所の男性(60代)だった。 驚いて「何しようと?」と声を掛けると、「うちの(妻)がおぼれかけてる」「車から逃げられん」という。助けを求めに有村さん宅がある方に向かっているところだった。 私道の低くなっている場所に山側から大量の水が流れ込み、軽自動車がフロントガラスの下ぐらいまで浸水していた。署によると、当時、車で自宅から避難している途中で立ち往生していたという。 有村さんが水の深い方まで歩いてたどり着き、男性が開けたままにしていた助手席側のドアから、首の下あたりまで水につかり動けずにいた男性の妻(60代)を運転席から助け出した。「重い、こんなに重いっちゃろか」と水の抵抗を感じながら、「何とかしないと」という思いで体を引っ張り出した。 そのまま女性を背負い、水のない場所に向かった。「夏といっても水は冷たく、女性はふるえていた」 水がたまっていない場所まで20~30メートルの距離だったが、流れ込んでくる水に逆行して歩くため、なかなか進まないように感じた。「途中でもう無理、とも思った。水の中を歩いたのは多分、数分だったけど、人生で一番力を使ったのでは」と有村さんは振り返る。 歩いて夫婦を家まで送り届け、優月さんたちは荷物を持ってあげてついていきながら、「もう少しで家につくからがんばってね」と声をかけた。 110番通報で駆けつけた警察官に引き渡し「ほっとした」という有村さん。その後すぐに、県道を通行止めにする業務に向かった。署によると、夫婦にけがはなかった。当日も「助かった。ありがとう」と有村さんたちに感謝を伝えていた夫婦からは後日、あらためてお礼が伝えられたという。 25日は有村さんと優月さんが署を訪れ、柳田憲一署長から感謝状を受け取った。有村さんは「あの時、子どもたちが一緒にいなかったら、あるいはもう少し早く家を出ていたら気づかなかったと思う。タイミングもよかった」。優月さんは「最初は怖かったけど、自分たちも何かできることがあれば手伝おうと思った。救助されてほっとした」と話した。(後藤たづ子)
朝日新聞社