マイナ保険証への“賛否にかかわらない”盲点…知られざる「情報プライバシー侵害のリスク」とは? 個人情報保護法制に詳しい弁護士らが「警鐘」
10月から「全情報の提供への同意を誘導する仕組み」に仕様変更
この問題は、10月7日から医療情報についての同意・不同意の方法が見直されたことにより、さらに深刻化しているという。 赤石弁護士:「これまでは『手術歴』『診療・薬』『健診』の3つの項目についてそれぞれ『同意・不同意』を選ぶ方式だったが、10月7日から、最初の画面に『全て同意する』『個別に同意する』の2つの選択肢しか表示されない画面になった(【図表】参照)。 実際には『個別に同意する』を選択すると、従来と同様、『手術歴』『診療・薬』『健診』のそれぞれについて『同意・不同意』を選べる形にはなっている。 しかし、普通の人がこれを見て、『同意しない』の選択肢があることに気付くことは難しい。『どちらかで同意しなければならない』と誤認する可能性がある。 『全て同意する』を押すと、過去のすべての『手術歴』『診療・薬』『健診』の情報を提供してもいいということになってしまう。 『個別に同意する』を選んだ場合も、自分のどの情報をどのように提供されるのかがわからないまま、『同意・不同意』の選択を迫られることになる」 第二東京弁護士会元会長の山岸良太弁護士は、この仕組みは一般企業であれば許されないことだと指摘する。 山岸弁護士:「もし、普通の一般企業が消費者向けに『同意しない』という項目を作らず、『同意する』と『個別に同意する』のみの画面を作ったら、それだけで『消費者保護に欠ける』と問題視されるだろう。 そのレベルのことをやっている」
「真意による同意」か疑わしいケースも
もちろん、最初の画面で「個別に同意する」を選んだうえで「手術歴」「診療・薬」「健診」のそれぞれについて「不同意」を選択することもできる。 しかし、「同意」を選ぶ場合、それが果たして真意に基づく同意といえるかという問題が発生する。 赤石弁護士:「たとえば、小さな個人経営の医院などで『マイナンバーカードをカードリーダーにかざしてください、医療情報の提供に同意してください』などと言われたら、『いえ、私は不同意です』とはなかなか言い出しにくいことも考えられる。 また、知的障害のある人、一部の精神障害を患っている人等については、そもそも同意すべきかどうかという判断ができないケースが想定される。家族や高齢者施設の職員が付き添う場合でも、本人に代わって家族や職員が同意していいのかという問題もある。 そうなると、仮に『同意』のボタンを押しても、本人の明確な意思に基づく同意とは言えないケースが多発しうるのではないかという問題がある。 しかも、いったん同意すると、『前の画面に戻る』という選択肢がない。誤って同意のボタンを押した場合や『やはり不同意にしたい』という場合に、同意を撤回する手段がない」