ガザ出身医師が訴える「教育」とネタニヤフ政権への「国際的制裁」の必要性
インタビュー後記: アブラエーシュ博士との対話からの学び
アブラエーシュ博士とのインタビューを通じて繰り返し登場した言葉は、「行動(Action)」と「教育(Education)」でした。私はインタビューやラジオ放送中でも、彼の娘たちを「Daughters」という言葉でひとくくりにすることなく、「ビサーン、マイヤール、アーヤ」、そして姪の「ヌール」、さらに奥様の「ナディア」と一人ひとりの名前を挙げて話を伺いました。博士は国内外のインタビューで常に「ガザの死者は数字ではなく、名前があるんだ」と訴えておいたからです。家族の名前をインタビューで出す度に額を抑えながら言葉を紡ぎ出してくれました。 アブラエーシュ博士の半生を描いたドキュメンタリー映画『私は憎まない』は、単なる苦しみの物語ではなく、未来に向かう力を与えてくれる作品です。ニュースという「点」で見ると、悲惨な状況から目を背けたくなることもありますが、ドキュメンタリーという「線」で捉えると、長年にわたる対立の中に埋もれている人間同士のつながりが見えてきます。 壮絶な人生を送っている博士の言葉は力強く、鼓舞するものでした。一方で、ガザの難民キャンプからロンドン大学やハーバード大学に進学し、後にパレスチナ人として初めてイスラエルの病院で働くようになった彼のグローバルキャリアの中で積み重ねられた知識と経験から紡ぎ出される言葉は、決して一方的ではなく、時にリアリスティックであったのも印象的です。イスラエル軍に家族を殺されても、非情を訴えるだけではなく「国ではなく個人が責任を負うべき」というスタンスを変えることはありませんでした。暴力や憎悪の連鎖を次の世代に残さないためには、国際的な協力と行動が不可欠であると博士は訴え、その責任を全世界に問いかけています。
吉田まゆ