『極悪女王』白石和彌監督の時代劇への思いが結実! 戦場感がリアルな『十一人の賊軍』撮影現場に潜入
◆賊軍として戦場に立つ、山田孝之のオーラにシビれる
総監督を務めたNetflixシリーズ『極悪女王』など、命を燃やして生きる人々の熱気をとらえることに定評のある白石和彌監督。最新作となる『十一人の賊軍』では、戊辰戦争の最中に「決死隊」として戦いに招集された罪人たちの死闘を活写。豪華キャスト陣と共に、壮絶な裏切りと葛藤の物語をスクリーンに刻み込んだ。クランクイン!では、本作の撮影現場に潜入。死と隣り合わせの戦場と化した世界へと、足を踏み入れた。 【写真】雨に打たれる山田孝之のオーラがすごい! 『十一人の賊軍』メイキングカット 本作は、「日本侠客伝」シリーズ(1964年~)、「仁義なき戦い」シリーズ(1973年~)などを手掛け、東映黄金期の礎を築いた脚本家・笠原和夫が1964年に執筆した幻のプロットを60年の時を経て映画化したもの。明治維新の中で起きた戊辰戦争の最中、新発田藩(現在の新潟県新発田市)で繰り広げられた歴史的事件・奥羽越列藩同盟軍への裏切り=旧幕府軍への裏切りのエピソードをもとにした物語。巨匠である笠原が手掛けたこのプロットを、企画・プロデュースの紀伊宗之と白石監督、脚本の池上純哉ら、平成ヤクザ映画の金字塔『孤狼の血』チームが受け継ぎ、令和に新たな集団抗争劇として誕生させた。 新発田藩、新政府軍、旧幕府軍の三者の思惑が交錯する中、戦いに駆り出されたのは無罪放免を条件に招集された死刑囚たち。さまざまな罪を犯した彼らは、“11人の決死隊”となり圧倒的不利な状況の中で戦いを繰り広げることになる。山田孝之と仲野太賀がダブル主演を務める。 千葉県安房郡鋸南町の山道にガタガタと車を走らせて到着したオープンセットには、“11人の決死隊”が必死に守ろうとする砦(とりで)のセットが建てられていた。屋根も壊れて朽ち果てた砦や、浮き上がる血管までリアリティたっぷりに作られた、数々の死体も戦いの激しさを物語る。劇中で大きな鍵を握ることになる吊り橋、ヤグラもしっかりと用意されたほか、山深い自然までも見事に映画の世界の一部として取り込んだような立地で、こちらまで戦場に踏み込んだような感覚を味わえた。 爆破や発砲の轟音が鳴り響き、血飛沫が飛び交うなど、この場所で壮絶な死闘を撮り上げている白石監督。記者陣には「ようこそ!」「この辺りは鹿や猿も出るんですよ」とニコニコとした表情で声をかける一方、モニターを見る目は鋭く、走って役者のそばまで駆けつけて演出を付けるのが白石流だ。この日は雨降らしのシーンも撮影されたが、屋根の上からホースで雨を降らせ、下からはパラグライダーのエンジンで風を吹かせつつ、土砂降りの状況を再現。スタッフは水や泥を浴びながら、力を合わせている。“11人の決死隊”を演じるキャスト陣も、衣装はボロボロながら撮影の合間には清々しい笑顔を見せていたのが印象的で、現場にはなんともいい風が吹いている。誰もが泥臭く、熱く、士気を高めて撮影に臨んでいた。また賊軍として戦場を駆け回る政を演じる山田孝之は、大袈裟ではなく、ビリビリとした気迫が見えるような特別なオーラを発していた。仲野太賀との化学反応にも期待がかかる。 日々、車で山を登ってロケ地まで通っている白石監督だが「爆破もできるし、条件がとてもいいんですよ」と目尻を下げ、「撮影の約2ヵ月の間、ここにいるとなると嫌になるかなと思ったんですが、セットができてみると全然嫌にならない。この場所まで来る道すがらも、ワクワクした道に思える。毎日ここに来るのが楽しみでしょうがないんです」と少年のように目を輝かせていた。