もはや米ドルは覇権通貨ではない...世界経済を揺るがす「新通貨」の可能性
台頭するBRICS経済圏
現行金融システム(以降「旧システム」とします)は、「米ドル基軸通貨体制」で成り立ってきました。そして「1971年ニクソンショック」や「石油・米ドルペッグ制(固定相場制)」「1985年プラザ合意」などで米ドルを保護しつつ、世界の金融システムを維持してきました。 ところが最近、ロシアや中国などのBRICS経済圏が台頭し、独自の通貨流通圏を形成し始めています。このBRICS経済圏の規模は現在、G7の30パーセントより大きい36パーセント。今後も仲間に入りたいとする国が増加中で、やがてドル経済圏に肩を並べるどころか、追い抜く勢いです。 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5か国の頭文字を合わせて名付けられたBRICSグループに、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦、エチオピア、エジプトが加わった10か国のBRICS+では、全ての取引と支払いを米ドルを使わずに自国通貨で行うことに合意しています。 ねらいは「ドルの締め出し」です。加盟希望国はシリア、ボリビア、ジンバブエ、キューバ、カメルーンをはじめ、2024年中には40か国を超える見込みです。 またBRICS諸国は、タイ、ラオス、スリランカ、カザフスタン、ベネズエラ、ボリビアなど多くの国と自国通貨で支払いを行う協定を締結。さらにはASEAN10か国も相互の貿易決済に今までのように米ドルは使わないで自国通貨を使う方針を表明しました。
もはや米ドルは覇権通貨ではない
ではドルを使わずに、どうするのでしょうか。 BRICSは現在、新通貨「The UNIT」の発行を計画中で、BRICS+ビジネス評議会「金融サービスおよび投資ワーキンググループ」ですでに議論されており、早ければ2025年にBRICS+の公式政策となる見込みです。 BRICSが主に国家間決済用通貨として利用する新通貨「The UNIT」の通貨価値は、金40%、BRICS+通貨60%で価値を構成する半金本位通貨でペッグ制(固定相場制)。分散型台帳(ブロックチェーン)を採用し、ドルのようにどこかひとつの主体が使用・保有を制限できることがない非政治的通貨であるとしています。 このような状況を受けて米経済学者ジェフリー・サックス氏は次のように述べています。 「BRICSの経済は米国やその同盟国の経済よりも大きい。ワシントンでは一種のパニックが起きており、それは不安の神経症にまで高じている」 少なくとも、もうすでに米ドルは覇権通貨ではありません。米ドルが価値の源泉となる覇権通貨の地位を脅かされ、やがて追い越されようとしているのに、米ドルが今の水準であるのは、大きな市場の歪みであると私は考えています。
長嶋修(不動産コンサルタント)