もはや米ドルは覇権通貨ではない...世界経済を揺るがす「新通貨」の可能性
ドルは下落し続けている
ドルの価値を「エイヤッ!」と決めてスタートした世界の金融システムでしたが、その後世界の経済のパイが思いのほか大きくなると同時に、基軸通貨ドルを持つアメリカ経済がベトナム戦争などで疲弊し、ドル基軸体制の維持が厳しくなってきました。 ブレトンウッズ会議からわずか27年後の1971年、アメリカは「ゴールドとドルの兌換(交換)を停止する」と発表したのです。つまりこの時にドルの、ひいては世界中のお金の価値の裏付けはなくなったわけです。それでももうこの時には世界の経済は回っており、いわば「慣性の法則」が働いたとでも言うか、「みんながドルを信用しているから自分も信用する」といったトートロジーによって金融システムが保たれることになります。 この事件は、当時のアメリカ大統領名を付けて「ニクソンショック」と呼ばれています。裏付けのないお金であっても、世界の金融システムが何となく回ることが確認されたこの時、お金は単独で価値を持つようになったのです。要はゴールドという親から離れたお金の独り立ちですね。 2年後の1973年には現行の変動相場制となるわけですが、ここからお金の中における、ドルの相対的価値の下落が始まります。ドル円に限らず、世界の主要通貨とドルの長期的な価値の変遷は、1973年以降、約50年間は「ドル価値下落の歴史」なのです。
円とスイスフランが世界経済を支えている
「そうは言っても、昨今は強烈な円安ドル高じゃないか」という声が聞こえてきそうです。たしかに本稿執筆時点の為替は1ドル145円(2024年8月21日)と、直近のトレンドから円安に振れていますが、これは何も「ドルが強いから」とか「円が弱いから」ということではありません。「日米に金利差があるから」です。 近年の世界経済は強烈なインフレに見舞われ、とりわけアメリカにおいては2022年6月には9.1パーセントのインフレとなるなど、火消しのために順次、金利を上げてきました。金利が上がれば景気を冷やす、ひいてはインフレを抑制する効果があるからです。 その間日本はずっと「マイナス金利」政策を続けたため、日米金利差がドンドン開きます。こうなると「円キャリートレード」が発生しがちです。 「円キャリートレード」とはカンタンに言えば「円で資金調達したマネーをドルに換えて資産運用や事業投資を行うこと」を指しますが、これは何も外国人投資家のみならず、国内企業も同様の資産運用を行っているどころか、事業投資にも充てています。 これは、利益を追求する事業会社としてはある意味当然の行動とも言えます。「低金利で資金調達し、高金利で運用する」のは儲けの鉄則にほかならないからです。 ということは、実は次のようなことが言えるのではないでしょうか。 金利差をつけることで円が売られ、ドルが買われているわけですから、この構図は大きく見ると「ドルを、円が支えてあげている構図」にほかなりません。グローバルに見ると「低利の円とスイスフランがドルを支え、世界経済を支えている」と言っても差し支えないと思います。 このスタイルは到底持続可能ではありませんので、どこかの段階で基軸通貨のドルが崩壊するか、崩壊させたくないのなら何らかのドラスティックな方策を打ち出すしかないでしょう。その時期はもうそう遠くなく、本稿執筆時点では2026年あたりと想定しておきたいと思います。