茂木健一郎「春はメンタル面での不調を訴える人が増えると言われていますが…」“不安”になるメカニズムを脳科学的視点から解説
脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 TOKYO FMとJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。 今回の配信では「新生活に向けての不安の取り除き方」に関する質問に答えました。 【音声を聴く】茂木健一郎のポジティブ脳教室
<リスナーからの相談>
新年度。慣れた世界から慣れない世界に飛び込む節目となり、不安になりがちです。茂木さんから不安を取り去るコツなどを聞いてみたいです。
<茂木の回答>
なるほど。確かに春はメンタル面での不調を訴える人が増えると言われていますけど、それは、別れや出会い、環境の変化などでストレスを感じてしまう人が多いんですよね。なので、相談者さんが不安な気持ちになるのもとてもわかります。 “不安”という感情は、脳の不確実性に対する適応です。だから“不安”という感情を持っているということは、極めて健康なことなんです。逆に、どうなるかわからないという不確実性があるのに、不安にならないことは問題なんです。 不安になると、脳のなかでどういうことが起こっているかというと、自分が過去に不安になった状況、その関連する記憶を検索したりするわけですよ。“そういえば、前にもこんな不安になることがあったな。そのとき、自分はどうしただろう?”って思い起こしたりするんです。 そうすると、過去の経験の記憶から、これから向き合う新しい状況に対して心構えができるし、参考になる知識やスキルを引き出すことができます。そうすると、不安になったときに人はあまり余計なことをしなくなるんです。 不安になったときは、そこまで積極的に動かないようになりますよね。これは、脳が不必要なリスクを避けるために持っている反応です。 例えば、ストレスに対する反応として「ノルアドレナリン」という脳内伝達物質が分泌されます。恐怖や不安というネガティブな感情が生まれたときに、こういうものが脳の働きを高めてくれるんです。 不安を感じるのは当然のことなのですが、これは脳の感情(をつかさどる部分)が、“いきすぎてしまうと良くない”ということなんです。なので、不安に感じていても、やるべきことはやったほうがいいのかなと。 例えば、副交感神経系が働くときは、おいしい物を食べたり、ゆっくりお風呂に入ったり、友達と何か楽しくしゃべったり、そういう脳がリラックスしているときに働きます。 “不安を感じることは変なことではなく、むしろ自然”ということを受け入れたうえで、やっぱり少しでもホッとする、安心する時間を持つことがいいのかなと思います。 あと、ルーティンも大事。春の不安な時期でも、いつものように食べる、寝る、運動するといったルーティンをおこなっていると、不確実性の回路だけでなく、いつも働いている確実性の回路も働くようになるので、バランスとしていいのかなと思います。 “不安”というネガティブな感情のすぐ近くには、“希望”というポジティブな感情もあります。ぜひ、いま申し上げたようなことを参考にしていただいて、不安に思いつつも、楽しみな季節を乗り越えていきたいですね。 (「茂木健一郎のポジティブ脳教室」配信より)