スマホリングが自助具に 当事者がくれた「さりげなく」の視点 難航の道のり、浮かんだ〝待ってくれる人〟
リウマチ患者にインタビュー「買いたい」
商品化に向けては、最初に類似の商品がないか調べることから始めました。 インターネットで調べると、類似商品はなく特許出願も可能とわかりました。さらに、複雑な形状ではないため、新たな技術を投入する必要がないこともメリットに感じたといいます。 次に行ったのは「ニーズ調査」。本当に求めているユーザーがいるかを確かめるため、リウマチ患者の方と別商品案のヒアリング中に、余談としてスマホリング案を提示してみたそうです。 すると、本題以上に反応があり、「製品があったら買いたい」とまで言ってくれたことに背中を押されたといいます。 三野さんは、「その方は『さりげなく開けられるのがいい』と言ってくれました。その『さりげなく』が大事なんだなと感じました」と振り返ります。
商品の価値、障害のある人たちが認めてくれた
その後も握力に不安があったり、手に障害があったりする人たち数十人にインタビューを重ねる中でも、「さりげなく」というキーワードは何度となく聞いたそうです。 話を聞いた人たちは、もともと自助具としてキャップオープナーを持ち歩いている人がほとんどでした。 新しく開発したオープナーの役割を備えるスマホリングは、「キャップオープナーを別に持つ必要がない」という点が評価されたそうです。 さらに、三野さんは「自助具を取り出して使うことで『できない人』と思われることを嫌だと感じる、という方が結構な数いました」と振り返ります。 「『さりげなく使える』という視点は、我々だけの打ち合わせでは絶対に出てきません。この商品の価値を、実際に必要とする方々が認めてくれたんだと思いました」と、二人は声をそろえます。
「やめます」と言ったら世に出せない
当事者へのインタビューは社内プレゼンでも大きな支えになったといいます。 それまでは「どうやってこれでもうけるのか」「どうせ安価でしか売れない」と商品化に難色を示していた社員たちも、当事者の声を伝えると「これは良い商品なんだ」と理解し、「初めて仲間になってくれた」と感じたそう。 さらに、「我々にとって当事者の方々の声が支えになったんです」と大久保さんは言います。 「僕らが『やめます』と言ったら、この商品は世の中に出せなかった。諦めそうなときに、この商品を待ってくれてる人たちの顔が本当に浮かんできたんですよね。それで、やらなきゃだめだねってなれたんです」 三野さんも「『買う』って言ってもらった以上、出さなきゃいけないという気持ちになりました」と話します。