なぜエヌビディアは覇者になれた? 無名だったジェンスン・ファンをTSMCが認めたワケ
卒業式スピーチで語った「説得力ありすぎ」の深い言葉
とはいえ、どんな業界でも王者であり続けるのは簡単ではありません。 ジム・ケリー氏は、ファン氏が持つリーダーとしての素晴らしさを認めつつも、AIの用途は幅広く、無数のユーザーがいる以上、「そのすべてがエヌビディアやインテルが提供する半導体に満足しているわけではない」(『東洋経済オンライン』2024.3.4)と指摘しています。 たとえば、新製品が出るたびに上昇する価格について、ファン氏は「買えば買うほど(開発時間やコストを)節約できる」(『週刊東洋経済』2024.8/10-17 p42)とは言うものの、より安価な代替品を求める声があるのも事実です。 当然のように、AMDやインテルといったライバル企業は開発に懸命に取り組んでいますし、エヌビディアの大口顧客であるメタは「МTIA」を、マイクロソフトは「Azure Maia」というAI専用半導体の開発をしています。 果たしてエヌビディアの独走がいつまで続くのかは大いに関心のあるところですが、そのことも十分に承知のうえで、ファン氏は台湾大学の卒業式スピーチの最後をこう締めくくっています。 「走れ、決して歩くな!獲物を追っていたとしても、獲物にならないために逃げていたとしてもだ」 半導体市場の覇権を長く握っていたインテルを抜き去り、今や市場の中心に君臨するエヌビディアですが、かつてビル・ゲイツ氏が言っていたように「ライバルはガレージにいる」かもしれないのがITの世界です。急成長する市場で誰が覇者となるか、決して目を離すことができません。
〔参考文献〕
執筆:経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥