東大生が「103万円の壁は撤廃すべき」と断言するワケ。「学費、生活費を稼ぐ学生」を見捨てるのか
―[貧困東大生・布施川天馬]― みなさんは「103万の壁」をご存じでしょうか。基礎控除と給与所得控除を合わせた金額が103万円で、これを超えると所得税が発生します。パート、アルバイトで働く方が年末になると働き控えを起こす原因です。 これは1995年に合計103万円に引き上げられて以来、ずっと変わっていないようで、80年代前半には90万円で、その後100万円まで引き上げられた経緯があります。 40年前は結構頻繁にこの壁が動いていたのですね。逆に、30年近くも前の物価、貨幣価値の基準からずっと動いていないあたりに違和感を抱きます。
「103万円の壁」が学生にもたらす弊害
時には「103万円の壁なんて存在しない」と仰る方もいます。1987年に創設された配偶者特別控除を根拠にしている方が多いようです。 これはパートナーの所得が年間1000万円を下回る世帯に限り、自らの収入が年間103万から141万までならば、最大38万円までの所得控除が可能になる制度です。 ただ、これは「大人」にとっての話。学生には関係ありませんし、依然として存在している。正確に言えば、勤労学生控除がありますが、これは130万円までなので、配偶者特別控除による控除額には遠く届かない。 今年9月に、東京大学の学費が64万2960円に値上げされることが決まりました。物価も上がり、東京の賃料も上昇しており、学費まで値上がったのに、控除の壁は動かない。 いま「103万の壁」について議論がなされていますが、大学生からしても撤廃されるべきように感じます。東大生にインタビューして分かったリアルな「103万の壁」がもたらす弊害についてお伝えします。
103万では自学自弁での大学生活は不可能
国立大学の学費は53万5800円が一般的ですが、9月に東大が20%増の64万2960円に増やすことを決定しました。 私はこれを批判してきましたが、国立大学の法人化やそれに伴う逼迫した財布事情を鑑みると、どこかでせざるを得ない決断だったように思えます。問題は、学費が値上がると、一人暮らし学生の暮らしに大きな影響が出ること。 学費をバイト代で自弁する場合、控除額のうち約64万円の枠を学費のみに充てることになります。通常の控除枠だと残り約39万円、勤労学生控除を考慮するならば約66万円が残ります。ですが、これではとても東京で一人暮らしできません。 そもそも東京で暮らす場合、最低でも家賃に月7万円はかかります。東京大学公式の寮(三鷹国際学生宿舎)に入ると月額1万円ですが、それでも年間12万円がひかれます。 水道光熱費は別で、月当たり5,000円程度とするなら年間6万円。寮があるのは東京都三鷹で、京王井の頭線の三鷹台駅まで徒歩40分程度。交通費節約のために歩いて通ったとしても定期代だけで年間8万円程度かかる。 さらに、教科書代が半期ごとに2~3万円程度はかかります。通年で5万円。三鷹国際学生宿舎では食事が出ませんので、自弁となります。仮に切り詰めて食費を一日500円に抑えても、一か月で15,000円。一年間で18万円。 これだけで113万円となりますので、「103万の壁」を優に超えてしまいました。さらにスマホを契約していたら年間で8~10万円はかかります。あっという間に130万が目前です。 ここに被服費用や医療保険費用、交際費が入っていないことを考慮すれば、「103万の壁」ではまともに大学生活を営めないことがお分かりいただけるでしょう。 ちなみに学費が53万のままであれば、113-11=102万円とギリギリ「103万の壁」を超えていないので、今回の学費値上げが学生にとどめを刺した形になります。すなわち、「103万の壁」は、地方学生の「上京して一人暮らし」の選択肢を潰しているとも考えられるのです。