繰り返される「不正事件の歴史」…経営者たちが”悪魔の囁き”から逃れるための「唯一の」方法
近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。 【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣 本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。 『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第63回 『「自分の夢すら、いつか忘れる」…米国教授に学ぶ「数々の起業家たち」が陥ってきた「落とし穴」を回避する方法』より続く
倫理観は失われる
この章で、フォン・ブラウン、アルフレッド・ノーベル、アインシュタインの逸話を紹介しました。これに加えるなら、人類を救った発明と言われる「ハーバー・ボッシュ法」も発明が兵器に応用されたケースに当たるでしょう。窒素化合物の原料となるアンモニアを大気から効率的に合成する方法であり、これが実用化されたことで化学合成肥料が安価に大量生産できるようになりました。 人口爆発が始まり、食糧不足が懸念されていた20世紀初頭、ハーバー・ボッシュ法の確立は、まさに世界の食糧危機を救ったのです。しかし、ここで引き合いに出すからには、暗い側面が存在します。窒素化合物は、爆薬の原材料でもあったのです。それは第一次世界大戦で大量に使用されました。この発明には、何百万人の命を奪うという側面もあったのです。 目的と手段を取り違えてはならない。これはこの章で繰り返し語ってきたことです。そして、忘れてはならないのは、「倫理観は失われやすいもの」ということです。正しく、倫理観を保って起業したとしても、事業を進めるうちに、いつしかその倫理観が埃をかぶってしまうことも多いのです。 日本で後を絶たない企業の不正事件として、食品偽装があります。21世紀に入っても、いくつもの事件が起こりました。消費期限の偽装、原材料の偽装、製法の偽装、産地の偽装。事件が原因で倒産に追い込まれた会社も少なくありません。倒産は免れても、関与した経営者はほとんどの場合、会社を追われています。老舗の料亭、船場吉兆の事件。悪質な偽装が明るみに出たミートホープ事件。 こうした企業は最初から偽装をしようと思っていたのでしょうか。そういう会社も、もしかしたらあるかもしれません。しかし、多くはそうではないと思います。