第二次大戦から現代まで。人生を果敢に切り開いてきた老姉妹の一代記(レビュー)
それぞれの夫と死別後、ロンドンで二人で仲良く暮らす九十九歳と九十七歳の老姉妹。「いつも機嫌よく」をモットーとする彼女たち、じつは世間から一目置かれる存在だ。第二次大戦中、姉のジョゼフィーンは海軍婦人部隊に、妹のペニーは応急看護婦部隊に所属し、退役後は講演やインタビューなどに呼ばれる日々を送っている。ある時、戦時中のフランスでの働きに対して二人にレジオン・ドヌール勲章が授与されることになり、姉妹はパリに向かうことに。もちろん授与式への出席が目的だが、ペニーには他に密かな計画があった。それは、かつてナチス侵攻直前、姉妹が休暇でパリの知人を訪れた際の出来事に端を発したもので……。 旅のサポートをするのは彼女たちの甥の息子、アーチーだ。大伯母たちが大好きで献身的な彼がなんとも好人物。どこまでもマイペースな姉妹に振り回される様子が可笑しみを伴って描かれるが、そんな旅の道中と並行して、姉妹の過去も語られていく。 若かりし頃のパリでの恋、戦争の勃発、入隊の経緯とその後の過酷な体験……。特に、ペニーが能力を認められ特殊任務を命じられ、女性蔑視の空気が蔓延する中で訓練に奮闘していく姿は読み応えがある。戦後もその人生は冒険に満ちている。そのなかで少しずつ、ペニーが現在、パリでなにを企んでいるのかが分かってくる。が、思惑通りに事が運ぶわけがなく、とんでもないピンチが待っている。 護身術を身に付け、モールス信号を駆使し、過酷な時代に人生を自力で切り開いてきた女性たちの一代記でもある本作。といっても堅苦しくはなく、語り口調は柔らかくユーモアに満ち、痛快なエンターテインメント作品となっている。 C・J・レイは二十五以上の著作があるイギリスの作家、クリッシー・マンビーの別名義で、この著者名では本書がデビュー作となる。 [レビュアー]瀧井朝世(ライター) 1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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