【スズキ・フロンクス ◯△✕判定】爆売れの理由がわかった! ◯は充実装備と価格、✕は小さめの…?
スズキのブランニューモデルで、BセグメントSUVのフロンクスが好調なスタートを切っている。予約受注の段階で9000台を突破。2024年11月の登録ランキングは1713台で35位だったが、登録が進めばより上位に進出するはずだ。気になるフロンクスの実力を探ってみた。 【写真】フロンクスの長所・短所を写真で解説 TEXT&PHOTO:塚田勝弘(TSUKADA Katsuhiro) 日本国内にピッタリ!1550mm以下の機械式立体駐車場にも入るコンパクトSUV フロンクスは、先に登場したホンダWR-Vと同様に、インドで生産され、日本に導入される逆輸入モデル。3グレード展開となるWR-Vとは異なり、単一グレードになる。全長3995×全幅1765×全高1550mmというスリーサイズであり、全幅は5ナンバー枠を超える世界基準だ。全長はBセグメント級に収まっている。全高は、1550mm以下の機械式立体駐車場に対応し、最小回転半径も4.8mと小回りが利く。街中での高い機動力を備えたクロスオーバーSUVといえるだろう。 パワートレーンは、1460ccの直列4気筒エンジンに、6ATとマイルドハイブリッドが組み合わされ、駆動方式はFFのほかフルタイム4WDも設定している。同じインド製のWR-VがFFのみとするのに対し、降雪地域でもより選びやすいのがフロンクスだ。最低地上高は170mmとSUVとしてはそれほど高くはないが、オフロードコースにでも分け入ることがなければ必要十分といえるだろう。 【フロンクスの◯は?】充実装備と価格と静粛性の高さ 単一グレードということもあってか装備は充実している。全車速追従機能・停止保持機能付アダプティブクルーズコントロール(電動パーキングブレーキ付)や衝突被害軽減ブレーキはもちろん、車線維持支援機能、ブラインドスポットモニター(車線変更サポート付)、カラーヘッドアップディスプレイも標準装備する。さらに、スマホ連携機能付全方位モニター付メモリーナビゲーションも標準で、3Dビューで自車周囲を360°確認でき、室内視点、室外視点の切り替えも可能だ。また、4WDを選択すると、スノーモード、グリップコントロール、ヒルディセントコントロールも標準となる。 快適装備も充実していて、オートエアコンはもちろん、キーレスプッシュスタートシステム、前席両側のシートヒーター、USB電源ソケット(タイプA、タイプC)はリヤ足元にも用意。外観では、ヘッドランプ、デイタイムランニングランプ、ポジション、ターンランプをLED化し、足元には切削加工&ブラック塗装と16インチアルミホイールを標準化する。ETCは別途装着する必要はあるが、一般的には、欲しい装備はほぼ揃っているといえるだろう。このクラスでは、装備の充実度は群を抜いていて、2WDが254万1000円、4WDが273万9000円というのは、かなりの価格競争力を備えている。 これならディーラーに試乗車が揃う前に予約した人の気持ちも分かる……くらいの充実ぶり、コスパの高さだが実際の走りも気になるところだ。 街中から走り出すと適度に手応えのあるパワステのフィーリング、十分に高いボディ剛性感が好印象で、4気筒エンジンらしく音・振動面もそれなりに抑えられている。停車時から街中での常識的な加速時では、同じ4気筒を積むWR-Vよりも静かだ。試乗した2WDは、74kW(101PS)/135Nmのエンジンスペックに、2.3kW(3.1PS)/60Nmのモーターアシストが一定時間アシストする。トランスミッションは、CVTではなくトルコン付6ATだが、走行モードをデフォルトのノーマルにしておくと、2~3速、3~4速までのシフトアップが渋く、出力も燃費を重視して抑え気味なのがうかがえる。FFの車両重量は1070kgと軽いため、動力性能自体に不満はなく、スポーツモードに入れると、鋭いスタートダッシュと加速を引き出せる。シフトアップもノーマル時よりも鋭くなるが、より高回転域に張り付くため、多用していると音・振動面から少し避けたくなるが、高速道路への流入路や料金所からの再加速、追い越し時、山岳路などで走る際には重宝するモードだ。 乗り心地は、同クラスのSUVでは平均点を超えていて、街中から高速道路に乗っても印象は大きく変わらない。路面のギャップのいなし方も巧みで、背の低さもあってコーナーでの姿勢も安定している。高速道路でのロードノイズもWR-Vよりも抑えられている印象で、BセグメントSUVとしては上々といえるだろう。高速域での直進安定性も高く、クセの少ないハンドリングも美点だ。 【フロンクスの△は?】割り切った感のある後方視界 チルト&テレスコピックが標準となるフロンクスだが、運転姿勢は今ひとつすっきり決まらなかった。身長171cmの筆者にとってチルトの可動域は十分だったが、テレスコはあと10mmでも手前にくればぴったりという印象。シートハイトを駆使してもステアリングが少し遠い感覚。もちろん、テレスコピックが設定されないスズキの軽と比べると、よりベターなドラポジが得られたが、ベストとはいえなかった。 また、先述したようにブラインドスポットモニターと全方位モニターが標準になるため、斜め後方を含めた視界のサポート性は、手持ちの駒がすべて投入された状態だが、クーペクロスオーバーSUVらしい後方に向かって下がるルーフラインとリヤクオーターピラーの太さにより、斜め後方の視界はあまり期待できない。同モニターありきの視認性といえるだろう。 なお、1550mmに全高を抑えたことで、前後席ともに乗降時には頭上まわりに注意が必要で、SUVらしい高めのアイポイントが広がるわけではない。少し背の高いハッチバック並の視界だ。 朗報なのは、後席もきちんと大人が2人座れること(3人はさすがに中央席が厳しい)。身長171cmの筆者が運転姿勢を決めた後方には、膝前にこぶし2つ、頭上には手の平3枚分のほどの余裕が残る。座面は水平気味だが、後席両サイドの座面をへこませてあるため、臀部の収まりはいい。前席下への足入れ性は、助手席下にマイルドハイブリッド用のリチウムイオンバッテリーが配置されるため、運転席側の方が良好だ。 【フロンクスの✕は?】悪くはないが、通常時の荷室はそれなりの広さ 全長4mを切り、全幅も1550mmに抑えているにもかかわらず、後席の居住性は十分に合格点を与えられる。パッケージングは秀逸といえるだろう。とはいえ、魔法のように荷室の奥行きと高さまでは稼ぎ出すことはできず、荷室容量は210L(ラゲッジボードを外すと290L)と小さめだ。後席は6対4分割可倒式で、背もたれ前倒し時はシート部分がスロープのように持ち上がる。地上からの開口高は低く、荷物の出し入れは容易だが、大きな荷物の積載にはあまり向かない。それでも2人で数泊のロングドライブに出かけたり、キャンプなどのレジャーにも対応してくれるだろう。4人で出かける際は、積載力はそれなりと割り切りも必要になりそうだ。 いくつか、△と×をひねり出してみたが、いずれもフロンクスの美点の前には些細な指摘であり、走りや質感の面でインド製だから……といったチープさは全く感じられなかった。価格や装備、走りの良さなど、現在の日本製Bセグメント級SUVでは、最も高い競争力を備えたモデルであることは間違いない。
塚田 勝弘