磯村勇斗、愛車観を語る 旧いホンダ車に惹かれるワケとは
愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第59回の番外。前編では、俳優の磯村勇斗さんが、気になっているという日本車について綴る。 【写真を見る】磯村勇斗とホンダの極上スポーツカー(17枚)
ヴィンテージカーに興味を持つ
「ボディの曲線のラインがすごくきれいですね。あと、今、思ったんですけど、僕はやっぱりヘッドランプが丸目のクルマが好きみたいです」 俳優の磯村勇斗さんは、満面の笑みを浮かべてホンダS800のインテリアを覗き込む。その仕草からは、このクルマに接することができる喜びが伝わってくる。 今回は、いつもの連載とは趣向を変えて、本人が興味を持っているモデルに接するという企画だ。なぜ人気若手俳優が1960年代のヴィンテージカーに興味を持つようになったのか? まずは少年時代に遡って振り返る。 「父がクルマ好きで、運転も大好きだったんですね。ちょっとした買い物も含めて、毎日のようにクルマで出かけていたので、その影響で僕もいずれは免許を取って、自分でクルマを運転したいと思うようになりました」 磯村さんが運転免許を取得したのは、大学進学のタイミングで上京してから。合宿免許で取得したという。 「友だちと一緒に行ったんですが、真冬に雪国の合宿免許に参加したんです。すごく雪が降った年で、路上教習は両側が雪の壁になっている国道。怖いし、これは意味あるのかな? と、思いながら免許を取ったんですが、東京に戻ってレンタカーを借りて運転してみたら、めちゃくちゃ楽だと感じました(笑)。免許を取った当時はお金がなくて、自分のクルマを持てるなんて夢にも思いませんでしたが、幸いなことに今は自分のクルマで釣りやゴルフに行くようになっています」 こうしてクルマ生活をエンジョイしている磯村さんであるけれど、最近は古いクルマに関心が向いているという。 「いつもヘアメイクを担当してくださる方が、僕のクルマの師匠なんです。撮影前などにヘアメイクをしながらクルマの話をしてくれます。師匠は特に“ホンダ推し”なんですね。1960年代の2輪のレースでヨーロッパの有力メーカーを驚かせた話だとか、1980年代のF1で連戦連勝だったという話を聞いて、僕もすっかり影響されて。そこで、時々話に出てくるホンダ『S800』ってどんなクルマなんだろう? と、思って調べたら、デザインがすごくよくて、いつか実車にふれてみたいと思っていました」 こう言ってから、磯村さんはホンダS800のドライバーズシートに座った。 「いまから60年も前にこれを作っていたのか、と、思うと、ロマンを感じますね……。スイッチとかボタンの形が最近のクルマとは全然違って、秘密基地に潜り込んだような気がします」 WGPでチャンピオンに輝くなど、1960年代初頭の時点で2輪の分野では、“世界のホンダ”の名声は確立していた。そして満を持して、4輪市場にも参入する。 興味深いのは、ホンダが1963年に発表した最初の4輪モデルが、軽トラックのホンダ「T360」と、オープン2シーターのホンダ「S500」だったことだ。つまりホンダは乗用車より先にスポーツカーを世に送り出したということになる。 ホンダS500は、高回転型のDOHCエンジンや、シャフトではなくチェーンで駆動する後輪駆動レイアウトなど、独創的なメカニズムとともに登場した。1964年には排気量を拡大したホンダ「S600」が発表され、1966年にはホンダ・スポーツシリーズの完成形とも言うべき、ホンダS800がデビューする。 排気量791ccの直列4気筒DOHCエンジンの最高出力は70ps。この最高出力を発生するエンジン回転数が8000rpmという、高回転型のエンジンだった。当時の資料によると、720kgのボディを最高速度160km/hまで引っ張り上げたとある。 残念ながらこの日の撮影車両は、エンジンが始動しないコンディションであったけれど、それでも磯村さんは「このコンパクトなサイズ感、最高ですね」と、興奮気味に語った。 「外観の美しさといい、インテリアの格好よさといい、コンパクトさといい、どこを走っても似合いそうですね。風を浴びたいと思ったら山道とか、屋根を開けて海沿いの道を走るのも気持ちがよさそうだし、都心でこれに乗っているのもいい雰囲気です。ほら、気の合う仲間と一緒だと、どこに行っても楽しいじゃないですか。“エスハチ”は、そんな相棒みたいな感じがしますね」 せっかくの機会なので、ホンダ・スポーツのDNAを継承する、最新のホンダ「シビック・タイプR」も見てもらう。運転席に座った磯村さんは、「やっぱり、60年の時の流れを感じますね」と、感慨深そうに語った。 「タッチパネルも備わるし、すべての動きがスムーズになっています。でもワクワクするような“秘密の基地”感は受け継がれていると感じました。師匠が教えてくれたように、2輪で勝って、F1で勝って、それでブランドを築いてきた歴史をホンダは大事にしていますね」 磯村さんが言うとおり、ホンダには他社にはない特別なストーリーがある。 最新のシビック・タイプRでその物語にふれることができるのは、クルマ好きとしてとても幸せなことなのだ。