ノーベル賞受賞者のグーグル研究者が語る、科学とAI「AlphaFold」の未来
チャットボットに関する知見が科学分野の研究に応用され、科学の研究成果もまたチャットボットの開発に活かされている
■1年分の実験データを5分間で学習 ──あなたはDeepMindに2017年から在籍していますが、現在のAIをとりまく状況をどう考えていますか? 少なくとも2つの重要なことが同時に進行していると思います。AIを用いたチャットボットや画像生成ツールがどれほど強力なものかを人々が実感している一方で、科学界でもAlphaFoldによって同様のことが起きていると感じています。チャットボットは詩を作ったり、メールを要約したり、これまでコンピュータにプログラムできなかったことを可能にしましたが、私たちのAIモデルは、人間には解決できなかった難題に対処する上で、非常に効果的なものになっています。 科学の分野では、人間が解けない問題を解決することに焦点が当てられています。AlphaFoldは、1年分の実験データを5分で学習して予測を行なう能力を持っています。 ──DeepMindではチャットボットと予測モデルの両方のテクノロジーを開発していますが、これらがどのように統合されるのか、あるいは統合を目指しているのかを教えてください。 技術的な視点で言うと、かなりの部分で相互作用が起きています。データ学習は飛躍的に向上しており、チャットボットに関する知見が科学分野の研究に応用され、科学の研究成果もまたチャットボットの開発に活かされています。つまり、この2つの分野の技術や知識が互いに影響を与え合い、進化を促しているのです。 さらにこれらがどの程度、融合するのか、特にチャットボットが科学の分野にどういう影響を与えるのかという興味深い疑問もあります。現在のところ、チャットボットは科学論文の検索や要約、事実の抽出といったタスクには成果を上げていますが、それを超えて、科学的な実験結果を予測する段階には至っていません。デミス(・ハサビス)もこの点について話したことがありますが、チャットボットのテクノロジーからどのような予測的な実験結果が生まれるのか、またそれがどれだけ先の未来に起こるのかはわかりません。この分野での融合がどのように進むのかは非常に興味深い問題だと思います。