日本人の知らないレンガ建築の底知れない魅力
<歴史あるレンガ建築に恵まれたイギリスの街からその奥深い世界を紹介>
僕は「レンガのファン」。レンガ造りの建物はイギリスの至る所にあり、素材の一部にすぎず、特に希少価値もないから、僕のこの趣味は少々奇妙だ。【コリン・ジョイス(本誌コラムニスト)】 だから、自分の奇抜趣味は日本に住んでいたせいだということにしている。日本で暮らすまで、自分がどれだけレンガが好きなのか気付かなかった。日本ではレンガ造りの建物をほとんど見かけず、次第に恋しくなったのだ。 レンガは華やかなものとは思われていない。例えば、イギリスでは誰それが「レンガだ」という言い方をするが、それはその人が並外れているというよりは信頼性がある、という意味だ。また、何かを「レンガの壁」に例えることもあるが、それは「堅固で突破できない」の意味。だから良い意味に使われることもあるし(サッカーチームのディフェンスとか)、悪い意味の場合もある(官僚主義について言う時など)。 僕はレンガ造りに関しては平均以上に興味深い土地に住んでいる。僕の街、英南東部エセックスのコルチェスターはローマ人の入植地で、イギリスで最初にレンガを作ったのはローマ人だった。街の周囲にはローマ時代のレンガを使ったローマ時代の壁が残っている。 ■ローマ人の撤退でレンガ作りも衰退 ローマ人がイギリスから撤退した後、失われてしまった技術の1つにレンガ作りの技術も含まれる(床下暖房設備とか、そのほか数多くの便利なものも)。ローマ帝国滅亡からルネッサンスまでの間の数世紀が「暗黒時代」と呼ばれたのにも一理ある。偉大な文明の崩壊には、たくさんの科学、技術、文化の忘却が伴ったからだ。 とにかく、イギリス人はレンガの価値を理解していたが、もはや自分たちで作ることはできなかった。それで彼らは、古いローマ建築からレンガを略奪した。 例えば、11世紀にノルマン人がコルチェスターに城を建てたとき、彼らはローマのレンガを使い、さらには同じ場所にあったローマ寺院の基礎の上に建設さえした。僕は11歳の時に学校遠足でコルチェスターを訪れて(当時は別の場所に住んでいた)、この事実を教わり、すっかり誤解した。両親には、「ローマの城」に行ってきたよと報告したのだ。