元ブラックラムズのオールブラックスHC ~スコット・ロバートソンとは何者なのか~
両親はいつも言った。
「息子よ。自分らしくあれ」
オールブラックスのヘッドコーチ(HC)、スコット・ロバートソンの人格と行動様式は、かくして育まれた。本人が新聞(英国ガーディアン紙)の取材に述べている。
「それが私なのです」
10月26日の横浜での日本代表戦ラインアップ発表。自由の魂が背骨を貫く50歳の指導者は言葉を残した。
「来日以来の歓迎ともてなしは我々を謙虚にさせます。土曜は誇りに足るパフォーマンスで恩を返したい」。感謝のあかしにハードなヒット。ラグビーである。
昨年の3月、ワールドカップの結果を待たずに次期オールブラックスの指揮と指導を託された。異例である。
まあ、そのくらいよく勝った。2017年2月から23年6月までクルセイダーズを率いてスーパーラグビー7連覇、成績は98勝2分17敗、勝率84%に達した。本年の南半球のチャンピオンシップでは敵地でスプリングボクスに連敗、ホームのアルゼンチンとの初戦を落として6勝3敗。電撃デビューとはならなかったが、対ジャパンより始まる北半球ツアー(対イングランド、アイルランド、フランス、イタリア)において再びのオーラを放つ準備はしてきた。
みずからもオールブラックスのFW第3列でキャップ23を得た。現役のサイズは190cm、108kg。「レイザー」の愛称の由来とされる切れ味の鋭い、というより、ほとんどナタの一撃のごとき猛タックルで鳴らした。
2006年度。レイザーはトップリーグのリコーブラックラムズで現役最後の時間を過ごした。当時のチーム仲間、以下敬称略で武川正敏にプレーぶりを聞いたことがある。
「タックルがすさまじかった」。国内の大学ラグビーに痛覚なしの小柄なフランカーがたまに出現する。全身を凶器としながら大男にぶっ刺さる。「あれが巨大になったようなもの」。敵にしたくないですね。
やはり同僚で元日本代表SHの月田伸一(明治学院大学監督)の印象は「ただ強い外国人とは違った」。練習でもゲームでも「いま何をしなくてはいけないか。このチームに足りないものは何か」をよくしゃべった。「そういう感受性というか感覚がありました」。コーチの資質は「獲物を襲うようなタックル」の奥にのぞいていた。