日米の消費者物価を比較 日本の“慢性的低インフレ状態”の原因はなに?
日本と米国の消費者物価を比較すると、米国がほぼ一貫して上昇しているのに対して日本は1990年代後半からほぼ横ばいの状態で、両国の違いが一目瞭然です。日本の消費者物価は、ここ数年緩やかに上昇しているものの、米国との比較では鈍いインフレ率が浮き彫りになります。直近10年の消費者物価上昇率は米国が+1%台後半、日本が0%程度です。
日米の消費者物価を比較 上昇率の差は「サービス物価」にあり
ここで日米の物価の内訳を比較します。まず日米の「財」の消費者物価上昇率を比較すると、直近10年の平均は、意外なことに日米双方とも0%半ばから後半といったところで、大きな差はありません。両国とも原油・為替次第で0%を中心に上下する展開が続いています。 したがって、この10年程度の日米の消費者物価上昇率の差は専ら「サービス」によってもたらされていることがわかります。そこでサービス物価に目を向けると、直近10年は米国が2%強、日本が0%です。つまり、日本の慢性的低インフレはサービス物価の弱さに起因しているということです。ちなみに消費者物価を構成するウェイトの財・サービス比率は、日本が財:50、サービス:50であるのに対して、米国は財:40、サービス:60です。
日本のサービス物価上昇率が鈍い理由は何か? それは労働集約的なサービス業における賃金上昇率が鈍いことが主因です。物価と賃金は表裏一体の関係にあることから、どちらが「先」なのかは議論の余地があるものの、最近の運送大手の例がそうであるように、筆者は賃金(企業が負担する総人件費)が「先」で物価が「後」という因果関係の順序の方が強いと考えています。したがって、賃金が上がらないからサービス物価が上がらないという見方をしています。物価は「経済の体温」と表現されていますが、サービス物価を見ている限り、日本経済の体温はまだまだ適正より低いと判断せざるを得ません。
次にサービス物価の内訳に目を向けると、日米の物価に決定的な違いをもたらしているのが「家賃」であることがわかります。家賃は消費者物価のうち日本で約2割、米国で約3割を占める重要項目ですが、日本のそれは景気循環に関係なく一貫してマイナスで物価全体を下押ししている反面、米国のそれは景気循環を映じてここ数年3~4%程度の伸び率にあり、物価全体を押し上げています。 日本の家賃の推計を巡っては、統計が実体を過小評価しているとの指摘もありますが、それでも米国との差は歴然で日本の慢性的低インフレの多くを説明しています。家賃の上昇率が鈍いことの経済的な善悪はさておき、消費者物価上昇率でみたデフレを完全に克服するためには、家賃が持続的に上昇する必要があるでしょう。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。