名古屋「スズサン」、伝統工芸でハイエンド市場参入に成功、その戦略と展望をCEOが語る
現在は10~17時の日帰りで有松をぐるっと案内する「スズサンディスカバリーツアー」を開催している。徳川家が来た茶室や地域の食材を使ったレストランでの食事、職人の超絶技法や、若い職人たちが携わっているところを見て、実際に自分でも絞りを体験して店にも立ち寄ってもらうというものだ。丸一日の体験を通じて、袖を通している服が特別なモノになることを目指している。
WWD:宿泊施設やレストランなども視野に入れるのか。
村瀬:ホテルは念頭にあった。でも箱を作っても人が入らなきゃ意味がないので、まずは人を呼び込むツーリズムというソフトを整えることに注力している。有松は空襲がひどかった名古屋の中でも、米軍の捕虜収容所があったため、空襲を免れ建物や風景が残っている。そして、観光地にある顔はめパネルではない、生活の文化も残っている。「おー弘之帰ってきたか、お茶でも」と声をかけてくれる人々の暮らしがある。オーセンティックな暮らしがあることは訪れる人にとっては特別なものになる。欧米の方の日本滞在に長期滞在が増えている。今は1日のツアーのみだが、今後は1週間有松に滞在できるような街にしたい。
伝統工芸の海外進出をサポートする新会社設立
WWD:日本の産地における技法や技術継承や価値向上について、どこが課題だと認識しているのか、反対にどこに可能性があるとみているか。未来につなげていくために必要なこととは?
村瀬:経産省が指定する伝統的工芸品は北海道から沖縄まで241ある。抱えている課題は一緒で後継者がいないことや高齢化がある。名古屋市の調査によると、伝統工芸に携わっている従業員数は、1人が37%、2~5人が37%と大半を占める。年齢分布は、20代7%、30代13%,40代以上が80%。これから、有松の事例を他の産地で応用することに取り組む。日本の中小企業の海外進出をサポートする新会社「TOBIRA DESIGN」を作り始動する。これまで僕らが穴があったら落ちて、地雷があったら踏んでいたような知見を有効に活用して、日本の見過ごされている価値を世界に発信できるのではないかと考えた。具体的には準備(言語含む)、製品(サイズや用途などマーケットのニーズ)、ブランディング(継続的なビジネスに向けた戦略)、セールス(契約書などの書類や金銭回収)、物流などさまざまな課題に対応できる新しい仕組みを作り、職人と世界中の取引先とのやり取りを整えることを考えている。