名古屋「スズサン」、伝統工芸でハイエンド市場参入に成功、その戦略と展望をCEOが語る
村瀬:さっきもドイツの隣町に住む知り合いにばったり会った。「日本に来たからあなたの工房があると聞いた有松に来た」と声をかけてくれて嬉しかったし、実際訪れてくれる方は増えている。毎シーズン20~30代の若手と地域のおばあちゃんが2500~3000点を染め、年間5000点を10年間売ってきたとすると、5万人のユーザーがいる。ここでしかできない体験をして、目の前で職人のモノ作りを見て、自分が着ているシャツはこの人が作ったとわかる。飛行機と電車を乗り継いでわざわざ訪ねて来た人から賞賛されるのは作り手側の尊厳にもつながる。買う側は、作ることで伝統工芸の継続に貢献はできないけど、購買することで協力することができるからと、応援購買に近いマインドがある方が多い。
WWD:手染めは個体差が生まれやすい。化学染料を用いることでコントロールしていると聞いたが、それでも難しいのではないか。個体差はクラフト業界では自明のことで“味”になるが、一般的なファッション・繊維製品において個体差はクレーム・返品対象になりかねない。個体差を「不良品」と認識させないために、どのような対応をしているのか。
村瀬:もともと、同じものがいいと伝えてない。世界中のラグジュアリーブランドの店では同じかばんが並んでいて、やっていることは「マクドナルド」と変わらないと感じる。「有松鳴海絞り」は型を用いることも多くリピートができる。個体差がありながら、コントロールしやすいのが特徴だ。
「ヒューマニティのある循環と継続」を目指す
WWD:「スズサン」のビジネスの展望について、クラフト・ツーリズムに向けての進捗などあれば教えてほしい。
村瀬:ヒューマニティのある循環と継続を目指す。よく「グローバルなビジネスをやっていますね」と言われるが、一つの大きなことをやっている感覚はなく、製品を通じて有松というローカルと世界中のローカルをつなぐビジネスをやっているという感覚だ。2年前に企業理念「We are Bridge」を作った。文化と文化の橋渡しをする会社という意味を込めている。この15年は有松から世界中に「有松鳴海絞り」を発信した。次の15年は5万人の「スズサン」ユーザーが有松に来る循環を作りたい。そのために地域事業部を新設した。有松を「面」で見られる場所にしたい。