名古屋「スズサン」、伝統工芸でハイエンド市場参入に成功、その戦略と展望をCEOが語る
WWD:実際に製品にするときに「有松鳴海絞り」をどのように応用しようと考えたか。
村瀬:スズサンで「何を残して何を変えるか」を考えた時に、絞りの文化を素材、技術、用途の3つに分けて考えた。400年の間、素材は木綿、技術は絞り、用途は浴衣やてぬぐいで成り立ってきた。それをそのまま海外に持っていっても売れない。素材は木綿からカシミヤやアルパカ、ランプシェードにはポリエステルを用い、コアの絞りは残して、用途をストールやプルオーバー、クッションやブランケットに変えることで、日本で日本の伝統工芸好きしか使えなかったものが、世界中に販路を作ることができる製品になる。
WWD:販路開拓の戦略はラグジュアリー市場を意識したように見受けられる。
村瀬:最初から戦略があったわけではなかった。手仕事なので立ち上げ時からハイエンドマーケットにフォーカスはしていた。他のブランドに比べてもモノ作りにおいて優位性があり、ストーリーがある。とはいえ卒論通りにはいかないし、会社を設立した08年はリーマンショックが起こりどん底からのスタート。売ろうにも電話もメールも取り合ってくれない状態だったので作ったサンプルをトランクに入れて、ビジネスパートナーの弟がくれたおんぼろカーで欧州中を駆けずり回り、草の根の中で販路を広げた。その車は最後には床に穴が開き廃車にした(笑)。
WWD:販路拡大のきっかけはあったか。
村瀬:ただただ地道に続けて120店舗になったというのが実感だ。トランクを担いでさまざまな店を回ったのがとても勉強になった。店にどんなブランドが並びどんな製品がいいのかを直接見ることができたから。
そして、バイヤーは断りたいから断り文句を考え、「色が」「素材が」といちゃもんを付けてくる。そのバイヤーが指摘した点を改善してサンプルを新しく作って持っていくと、根負けしてオーダーしてくれるということもあった。
パリ・ファッション・ウイーク中に開催される合同展示会「TORANOI」に出て10年目になるが、そこからバイヤーが来てくれるようにもなった。