【台湾】政府と立法院の対立、継続か 国会改革と台湾政治の今後(上)
今年2月から7月にかけて開かれた台湾の第11期立法院(国会)第1会期では、与野党が「国会改革法」を巡って激しく対立した。頼清徳総統率いる与党、民主進歩党(民進党)による今後の政権運営はどうなるのか。専門家からは、立法院によって政府の政策が妨げられる状況が続くとの見方が出ている。中正大学政治学科の蔡栄祥教授と、台北大学公共行政・政策学科の蘇子喬教授に話を聞いた。 蔡栄祥氏は、頼政権にとって苦しい政権運営の始まりとなったとの認識を表明。今後の5院(行政院=内閣、立法院、司法院、監察院、考試院)の衝突とその緩和の可能性について「悲観している」と述べた。 頼氏の就任前は民進党が立法院の過半数を占め、総統には民進党の蔡英文氏が就いており、「国会の多数派も総統ポストも同一政党が握る状況に対して、権力が大き過ぎると多くの人が考えていた」と振り返った。一方で民進党が立法院で第2党となり少数与党となったことで、「衝突が増えただけでなく、違憲の疑いのある法案の提出や、国会の権利拡大が進められることとなった。協商をせず直接表決を行うことを堅持する政党があったりと、政党協商や与野党協商といった手段にも限りがあることが分かった」と分析した。 蘇氏は、2000~08年の陳水扁元総統の在任中の立法院は、国民党と国民党寄りの親民党で議席の過半数を占めていたことを挙げ、「現在の状況はやや似ている」と指摘。台湾の行政院は立法院の多数派で構成するものではないため、現在のような与党側が議席の過半数を持たない少数与党の状況が起こると説明した。 ■予算案の可決「困難」 今後については、蔡栄祥氏は原子力発電所の運転延長など、民進党の立場と異なる法律が可決された場合は、政府は執政の上で非常に困難な状況に陥ると予想。そういった場合、民進党の手段は市民運動や抗議以外には憲法解釈の請求しか残されていないとした。 蘇氏も、国会改革法の時のような「立法院が可決した法案について行政院が再審議請求して立法院が再度可決し、行政院などが憲法解釈請求し、判決が下される」といった状況が今後再び起きる可能性があると予想。一方で政府の政策は毎回阻止される可能性があるとした。 では9月以降に予定されている立法院の次期会期ではどうなるのか。蔡栄祥氏は、防衛と外交が争点になる可能性があるとの見方だ。野党が与党の関連法案を退けるような場合には、「国家の利益にとって最大の損害となる」と警告した。 蔡栄祥氏は現在の状況について「少数政府と頑強な国会」と表現し、「頑強な国会」は対立によって政府による政策執行を不可能にするか、多くの資金がなければ執行できないような状況を作り出すとした上で、今後3年はこの状況が続く可能性があると予想した。 蘇氏は25年度予算案について、可決が困難となり、立法院で大幅に削減されると予想。米国から購入する武器をはじめとする防衛予算なども国民党などの反対に遭い減らされるだろうと見通した。蔡栄祥氏も行政院は予算の推進と執行の上で非常に多くの問題に直面する可能性があると見通した。 ■「緑白合」を提案 蘇氏は、政府側が困難を乗り越えるには、ある程度の「緑白合(民進党と民衆党の協力)」が必須だと指摘。民進党政権が現在国民党と協力関係にある民衆党を味方につけることができれば、立法院で過半数を取る可能性があるとした。 一方で、民進党が政策で国民党に迎合することはないと予想した。26年の地方統一選や28年の総統選に向けて民衆の支持を得るためにも、立場が明確である必要があると強調。「台湾の民意は現在、民進党を支持する傾向にあり、頼氏の執政も支持を完全に失う段階には至っていない。特に両岸(中台)政策では国民党に迎合することはないだろう」と見通した。 蔡栄祥氏は、国民党と民衆党が法案の強硬可決を続けた場合、最終的に支持を失い、頼氏が2期目も当選する可能性が高まると予想。「人々は憲法に違反しない形で人々の助けになる法案が提出される進歩的な国会を望んでおり、国民党と民衆党が進める改革には反対している」との見方を示し、「国民党と民衆党が改革を進め、市民の望まない方法で国会の権力を拡大し続けた場合、支持率はますます低くなる可能性がある」とした。 <メモ> 国会改革法を巡っては、立法院職権行使法と刑法の一部改正案が5月に立法院の第三読会を通過(可決・成立)。立法院では6月、行政院が提出した再審議請求案の採決が行われたが、反対62票、賛成51票で否決された。これに対し、民進党の立法院党団、行政院、頼総統、監察院は相次いで司法院に施行の一時停止処分と憲法解釈を請求した。 憲法法廷は7月19日、立法院職権行使法と刑法の一部における「総統の国政報告」などに関する項目を即日一時停止処分とすると発表。8月6日には憲法解釈を巡る弁論が開かれ、判決は3カ月以内に下される見通しとなっている。 このほか、国民党の立法委員(国会議員)は原発の運転延長に関する法律の改正案を立法院に提出している。 韓国瑜立法院長(国会議長)によると、第1会期で通過した議案は55件だった。