福士蒼汰、松本まりか主演「湖の女たち」グロテスクな人間の業を重層的に描いた小説をよくぞまとめた! チャレンジングな役に挑んだ俳優たちと琵琶湖の美しさにゾクゾク
推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は見終わったあとも心にずっしり残るこの映画だ! 【画像を見る】映画「湖の女たち」キャストと人物相関図を見る
■福士蒼汰、松本まりか・主演! 「湖の女たち」(東京テアトル、ヨアケ・2024)
本屋大賞を受賞した宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)で描かれた琵琶湖は明るくて親しみやすくて、青春と郷土愛を載せたミシガン号が気持ちよく水面を進む印象だった。けれど『湖の女たち』で描かれる琵琶湖は違う。そこにあるのは圧倒的な美しさと厳しさ、そして人間たちが何をしても泰然としてそこにある「冷酷な揺るぎなさ」の象徴だった。 原作は吉田修一の同名小説『湖の女たち』(新潮文庫)。琵琶湖の近くにある介護施設で100歳の入居者・市島民男が死亡した。人工呼吸器が止まっているのにアラームが鳴らなかったことを不審に思った遺族が通報、殺人事件として捜査が始まる。施設を訪れた刑事の濱中圭介は介護士の聴取を行う中、豊田佳代という介護士に興味を抱く。それは容疑者としてではなく、歪んだ支配対象としてだった。 濱中は上司の伊佐美とともに介護士の松本郁子を疑い、苛烈な取り調べを進める一方で、豊田へのアプローチを始める。出産間近の妻がいる身でありながら豊田を深夜に呼び出し、サディスティックな欲求をぶつけるようになる。濱中を恐れながらも、豊田は彼の言いなりになることに快感を見出していく。 その頃、週刊誌の記者・池田はかつてこの地で起きた血液製剤の薬害事件を取材していた。大勢の犠牲者を出した薬害にもかかわらず大物政治家の圧力で立件が見送られたのだ。池田はその薬害に介護施設で殺された市島がかかわっていた可能性に気づく。そして関係者たちの共通点を戦時中の満州に見つけるが……。 というのが原作と映画両方に共通する導入部だが、こうしてざっくりまとめただけでも、介護施設での殺人事件、刑事と聴取対象者のインモラルな関係、薬害事件、満州での軍の行動、政治的圧力などなど、それだけで映画が一本作れそうなほどの大きな柱がいくつもある。さらに、容疑者とされた松本は明らかにスケープゴートで、警察による組織的な冤罪づくりというもうひとつの大きな柱もある。つまり、盛りだくさんなのである。 これだけのおぞましい出来事が並行して語られれば散漫になりそうなものなのに、原作も映画もそうなっていないのがすごい。それには理由があるのだが、それは後述。まずはいつものように原作と映画の違いを紹介していこう。