福士蒼汰、松本まりか主演「湖の女たち」グロテスクな人間の業を重層的に描いた小説をよくぞまとめた! チャレンジングな役に挑んだ俳優たちと琵琶湖の美しさにゾクゾク
■チャレンジングな役柄に挑んだ俳優たちがすごい!
映画の流れは原作に極めて忠実だ。これほどの重層的な構造の小説を、よくぞ構成要素を削ることなく140分に収めたなあと驚いた。違うのは原作では男性だった週刊誌記者・池田が映画では女性(福地桃子)になっていたこと、その取材の手順が一部カットされていたこと、豊田の恋人の存在や妄想シーンがカットされていたことくらいである。 逆に、原作にはないシーンが冒頭に加えられていた。夜明けの琵琶湖で濱中(福士蒼汰)が釣りをしている場面から始まるのは原作も映画も同じなのだが、映画ではその近くに、施設の仕事の休憩時間を利用して湖を訪れた豊田(松本まりか)の車が停まっている。その中で豊田はひとりで、その、まあ、なんつーか、秘め事というか、そういうことをしている。豊田は気づいていないが、それを濱中が(多分)見ている──というシーンから映画が始まるのだ。 いきなりだな! と思ったが、この場面が加えられたことで、施設で豊田と再会した(豊田にとっては初対面)濱中が彼女に性的な興味を持ったことが「わかりやすく」なった。しかも「釣る男」と「釣り上げられる女」という関係の暗示にもなっているのだ。なるほどなあ。──ところで、このタイミングで豊田が施設を出ているということは、彼女にはアリバイがないってことになるんだが、それはいいのかな? とにもかくにも、このふたりのお芝居がすごかった! 福士さんの嗜虐性と、松本さんの危うさ。小説では濱中の内面はあまり描写されず(家庭や仕事については内面描写もあるが、豊田との関係については何を考えているのか説明は少ない)、そのわけのわからなさが醸し出す怖さがそのままスクリーンに出ていた。逆に豊田の思考や迷いは原作では丁寧に言葉を尽くして描写されるが、映画の豊田はそんな説明はしない。表情や動き、声音だけで表現した松本さんホントすごい。ふたりの関係は倒錯しすぎていて理解も共感もなかなかできないのだが、それでも映画のふたりを見ていると、わからないなりにも「こういうこともあるのかもしれない」と感じられたのだ。 そのふたり以上に鮮烈だったのが、濱中の上司・伊佐美を演じた浅野忠信さん! 過去に懸命に捜査した事件が圧力で潰され、それ以降やさぐれてしまったのか何なのか、冤罪上等とでもいうような捜査をする。でもその一方で記者に情報を流してやったりもして、完全に荒み切ったわけではない。むしろ今の自分が嫌で、でもどうしようもないという伊佐美の閉塞感が痛いくらいに伝わってくる。終盤で彼が口にする「世界は美しいんか?」という一言には「うわあ」とのけぞるくらいゾクゾクした。