円安は日本有利で他国不利 日銀の利上げは経済の成長率上昇を阻害 「近隣窮乏化」が筆者の感想ではない証拠
【日本の解き方】 為替が1ドル=160円を突破し、日銀は7月にも追加利上げを行うとの見方がある。本コラムの読者なら「円安が問題だ」という見方や「円安対策として日銀が利上げすること」は二重に間違っていることが分かるはずだ。なぜそんな考えがまかり通っているのだろうか。 【表】「4人家族で1カ月に必要な金額」京都総評の試算と内訳 そもそも円安は、ミクロ経済的には得する人も損する人もいるが、マクロ経済的には日本経済に有利で、他国経済には不利だ。自国通貨安は古今東西で「近隣窮乏化」として知られている。米国のドナルド・トランプ前大統領や、ノーベル経済学賞学者のポール・クルーグマン氏らからも指摘されている。 近隣窮乏化の効果は、国際機関や各国のマクロ経済モデルで定量的に確認されている。例えば日本では、10%の円安で1%程度の成長率アップとなる。近隣窮乏化が古今東西成り立つのは、自国通貨安が輸出関連企業に恩恵を与えるからだ。 多くは世界市場で活躍するエクセレントカンパニーだが、そこに恩恵を与えるのは、能力の高い米大リーグの大谷翔平選手の打順をトップにして得点機会を多くするのと同じだ。いずれにせよ近隣窮乏化は事実であり、筆者の感想ではない。 日銀も財務省もマクロ経済におけるこの事実を知っているが、それぞれの利害から、マスコミや国民が誤解していても放置しているようだ。日銀にとっては、金利の引き上げが最重要課題なので、円安が悪者であったほうが好都合なのだ。 実は財務省にとっても、円安悪者論は都合がいい。というのは、円安で被害に遭う人向けの経済対策がなされるが、それを「高く売れる」からだ。円安はマクロ経済からみれば、成長率アップから税収が増えるため、その範囲で対策するのは容易であることは、財務官僚なら常識だ。実際、円安になってから、税収は過去最高水準になっている。 もちろん円安で被害を受ける人は実際にいる。マクロ経済に疎く、目の前の事実だけを取り上げて「世間はこうだ」と一般化する報道手法にどっぷりと染まっているマスコミは、「円安が大変だ」と騒ぐ。本来は日銀や財務省の意図を国民に知らせるべきであるが、マクロ経済への無知によってできない。 普通の学者ならば近隣窮乏化など知らないはずはないが、日本の学者は日銀や財務省に忖度(そんたく)して、だんまりを続ける。日銀や財務省の手先となっている人も少なくない。