「もっと上手くなりたい」参加選手は全員80歳以上! 超高齢サッカーリーグの尽きせぬ向上心
熊崎 敬
スピード感こそ失われていても、足もとの技術や戦術眼は健在。80歳以上の選手だけで戦われる「SFL80」は長寿大国ニッポンを象徴するサッカーリーグだ。優勝を決める最終節の試合に密着し、2023年4月から2024年2月まで全8節を戦い抜いた選手たちの老いてなお壮健な素顔に触れる。
「久しぶり、ちゃんと生きてるよ」
WHO(世界保健機関)が発表した世界保健統計2023年版によると、日本人の平均寿命は84.3歳(男性81.5歳、女性86.9歳)で世界1位。そして総務省が23年9月に発表した人口推計によると、80歳以上の人口が初めて10%を超え、日本は10人に1人が80歳以上となった。 そんな長寿国を象徴するスポーツ大会が、昨春から東京で開催されている。「東京都シニアサッカーリーグSFL80(O-80)」、つまり80歳以上の選手によるサッカーのリーグ戦だ。 日本にはすでに80歳以上のサッカー大会がいくつかあるが、O-80には際立った特徴がある。短期間のトーナメントで行われる多くの大会と違って、3チーム以上の常設チームが1年間リーグ戦を戦うという点だ。そんな珍しさも相まって、サッカー発祥の国イギリスをはじめ、フランス、ドイツなどのメディアがすでに取材に駆けつけた。 記念すべき初年度のO-80リーグに参加したのは、首都圏に暮らす80歳以上の男性、計62人。これがレッドスター、ホワイトベア、ブルーハワイの3チームに分かれて戦った。チームごとに年齢差が生じないようにするため、選手は年齢順に振り分けられている。 Jリーグと同じ広さのグラウンドで11人同士が戦うO-80には、高齢者向けのルールが設けられている。 試合時間は15分ハーフで交代は自由。ショルダータックルとスライディングタックルは禁止で、ピッチサイドにはAED(自動体外式除細動器)の講習を受けたスタッフが待機している。試合は4月から翌2月まで月1回のペースで開催されるが、猛暑が心配される7、8月は中止に。その他の月でも、熱中症警戒アラートが発表されると試合は中止になる。 さて、筆者が取材に訪れた2月16日は全12節(うち4節は中止)で戦われたリーグ戦の最終節。つまり初代王者が決まる大事な一日だった。 「おお、久しぶりだなあ。元気だったか」 「ああ、ちゃんと生きているよ」 「俺はねえ、先日同級生の葬式に出たんだよ」 「この歳になると見送ってばかりだねえ」 会場となる東京都世田谷区の駒沢オリンピック公園総合運動場の補助競技場に、次々と選手たちが集まってきて談笑している。少々背中が曲がった人や白髪の人もいるが、この時点で私の予想は早くも大きく裏切られた。80代にしては表情が若々しく、声には張りがあり、足取りもしっかりしているのだ。