オジュウチョウサン「偉大な記録を打ち立てたハードル界の絶対王者」【もうひとつの最強馬伝説】
絶対に譲れないこだわりを持った馬
障害重賞9連勝、同一障害GI 5連覇、JRA賞最優秀障害馬に5度選出など、輝かしい実績を挙げ、「ハードル界の絶対王者」「史上最強の障害馬」としてターフに君臨したオジュウチョウサン。 【レース映像】天皇賞・秋(GI)|ドウデュース(武豊) 2018年には武豊騎手を鞍上に平地戦でも活躍し、有馬記念では敗れはしたものの見せ場たっぷりのレースぶりでファンを大いに沸かせた。翌2019年の秋も平地戦を主戦場に、アルゼンチン共和国杯、ステイヤーズSと重賞を連戦。 翌2020年以降は障害戦に舞台を戻し、11歳まで現役を続けた同馬について、主戦を務めた石神深一騎手から聞いたお話を、選りすぐりの名馬36頭の素顔と強さの根源に迫った『もうひとつの最強馬伝説~関係者だけが知る名馬の素顔』(マイクロマガジン社)から一部抜粋してお届けする。 オジュウチョウサンといえば、数々の障害を颯爽と駆け抜け、無尽蔵とも思えるスタミナで圧倒的な勝利を積み重ねた障害界の絶対王者。そんな彼は普段、周囲の困惑などどこ吹く風。馬房でも調教でも傍若無人を極めていたようで…。 「あいつは完全に人間をナメてましたねぇ(苦笑)。人間の言うことを聞きたくないのか、とにかく自由気まま。最後の最後まで我の強い馬でした」 オジュウを愛しげに〝あいつ〟と呼ぶのは、不動の主戦として27戦を共に戦い抜いた石神深一。その付き合いは、2015年6月の東京ジャンプSから、引退レースとなった2022年の中山大障害まで、実に7年半を数える。 「僕が乗る前は山本康志さんが主戦で、山本さんが障害練習を始めた頃からオジュウのことは知っていましたし、調教に乗ったこともありました。当時から落とそうとしてくるし、指示を出すとごねて言うことを聞かないし。まさか自分がレースで乗ることになるとは思っていなかったので、『山本さん、大変だな。俺は乗りたくないな』と思っていました」 人に指図されるのが嫌いだったというオジュウには、こんなエピソードもある。 「調教中の放馬はけっこうありますが、大抵の馬は自由に走り回るか、賢い馬であれば自分の厩舎に帰っちゃったりするんですけど、オジュウは人間を落とした後、わざわざダートコースに行って、砂浴びをしていましたからね」 その砂浴びもオジュウ流。こだわりに満ちたものだった。 「ダートコースに入ったら一度止まって、自分が寝っ転がるところにちゃんと砂をかき集めて、ちゃんとそこに寝る。その後一度起き上がって、また砂をかき集めて、今度は身体の反対側を浴びるんです。そのこだわりにもビックリですが、そもそも調教コースで寝っ転がる馬をオジュウ以外見たことがない(笑)」 この他にも多くの「こだわり」を持っていたというオジュウチョウサン。レースでの強さも普段の傍若無人ぶりも、他の追随を許さなかった「個性派ここに極まれり」の名馬だった。