映画「ラストマイル」ヒットの鍵は“動画配信”戦略 「鬼滅の刃」が新たな映画化への道筋を作った
『ラストマイル』ではこれに似た現象が、人それぞれの形で起こったようだ。 私は「アンナチュラル」は放送時にハマって全話見たが、「MIU404」は見そびれていた。『ラストマイル』を見た後、Netflixで「MIU404」を見始めたところだ。 知人の中学生の娘さんは「MIU404」は放送時に見て、「アンナチュラル」は配信で見た。そして『ラストマイル』を見た後でまた、配信で2つのドラマを何回も見て、映画は5回見ると宣言しているそうだ。
2つのドラマを放送時に見て、配信で何回も見てから『ラストマイル』を見て盛り上がっている熱烈的ファンもいる。一方で、放送で両方を全話見たが、配信は見ずに映画を見たら中途半端な「シェアード」だったことに冷めた見方をする人もいた。 ■配信が普及したタイミングで、格好の「映画の届け方」 いずれにせよ、配信でドラマを全話見られることが、映画『ラストマイル』の観客の増幅装置になっている。今の話題の盛り上がりを見て、『鬼滅の刃』のときの私のようにドラマを配信で見て追いつこうとする人も、これから出てくるだろう。そう思うと、興行収入は前週よりあまり下がらずに高い水準をキープするかもしれない。
配信でドラマを見て気づいたのだが、1話だけ登場したキャラクターが『ラストマイル』に出ている。「MIU404」で高校生として出てきた少年が、『ラストマイル』では警察官の一員として働いていた。演じていた前田旺志郎という役者が好きなので、映画を観た後ドラマを見て気づいた。 そんな発見を、ドラマファンなら映画を見て即できただろうし、私のように後から気づく人もいるだろう。そんなふうに、映画と配信を往復することで何回も噛み締めることができ、映画をもう一度見たくなってしまう。
私は、「シェアード・ユニバース」とは、とってつけた映画の宣伝のための言葉だと侮っていたが、興行を成功させる戦略的な言葉だった。物語を何度も噛み締めて楽しむためのメディアの仕掛けであり、配信がコロナ禍を経てすっかり普及した2024年のタイミングに、まさに格好の「映画の届け方」だったと言える。 テレビで放送したドラマの映画版がヒットするのは、今では当たり前のように思っているだろうが、実は変遷がある。テレビ局は映画に早くから関わっていたが、壁があった。ところが1998年に『踊る大捜査線 THE MOVIE』が興行収入101.0億円のメガヒットとなり(出典:日本映画製作者連盟・日本映画産業統計)、壁を突き崩した。ドラマを映画化したらとんでもないヒットが生まれたのだ。2作目の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は興行収入173.5億円と、いまだに実写の邦画ではこれを超えたものはない。2000年代は「踊る大捜査線」シリーズがスピンオフ作品も含めて公開されるたびにメガヒットとなった。