映画「ラストマイル」ヒットの鍵は“動画配信”戦略 「鬼滅の刃」が新たな映画化への道筋を作った
■ドラマの映画化戦略に起きている変化 どういうことかと考えていたら、Facebookで東京工業大学教授の柳瀬博一氏がこんな投稿をしていた。 「ラストマイルのヒットは、鬼滅の刃で確立された<テレビと映画を動画配信が繋ぎ動画配信が中心となる>新しいコンテンツ消費市場が形成された流れが、ピッタリ当てはまる。」 柳瀬氏とは日経ビジネス在籍中から交流があり、コンテンツビジネスについての独特の見方に敬服してきた。そんな柳瀬氏の投稿に、私ははたと膝を打った。なるほど、『鬼滅の刃』のメディア戦略が『ラストマイル』ヒットの謎を解くカギか!
2020年10月、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が公開され400億円を超えるスーパーヒットとなったことは記憶に新しい。コロナ禍で打撃を受けた映画館が、活気を取り戻し救われた。 このときのメディア戦略は斬新だった。製作委員会にキー局も映画会社も入らず、アニメ版のテレビ放送はキー局を軸とせずに独自に独立局、ローカル局の放送網を作り、放送と同時にあらゆる動画サービスで配信。漫画ファンを核にマスメディアを使わずに巨大なファン層を育成した。
ノーチェックだった私からすると、穏やかな水面が突如泡立ち、巨大な鯨が姿を現したような衝撃を受けたものだ。ローカル局での放送と同時に配信してヒットさせる戦略は、一昔前のマルチウィンドウ戦略(放送や劇場公開から間を置いてDVDや配信など2次利用に移る考え方)を完全に時代遅れにした。放送が不要になったわけではなく、放送と映画の間に配信をしっかり置くことでファンが急激に増殖した。動画配信の時代の新しい戦略が誕生した。
柳瀬氏の投稿を受けて、私は各配信サービスに「アンナチュラル」「MIU404」がどう置かれているかをチェックした。ものの見事に、TBSが提携するU-NEXTだけでなく、Netflix、Amazonプライムビデオ、Hulu、LeminoそしてTVerで配信されていた。しかも、どのサービスでも全話見ることができる! これこそまさに「鬼滅の刃」戦略だ。 私も『鬼滅の刃』の映画がヒットしたときに、Netflixでアニメ版を全話見て映画館に駆け込んだ。自分が馴染んだ接点で気軽に追いかけることができたから、後からでも「乗っかる」ことができたのだ。