ナッツリターン問題で批判集まる「韓国財閥」の強さと弱さ 慶應義塾大学教授・柳町功
「ナッツリターン」と称される今回の大韓航空騒動は、韓国の国民感情として根強く存在する屈折した対財閥感情をかなり刺激することになった。離陸のために搭乗口を離れた航空機を無理やりリターンさせ、機内から乗務員(事務長)を降ろさせた主人公が財閥オーナー家の若き女性副社長であったことから、「財閥の横暴」として受け止められ、事件発生以降、連日マスコミを賑わせている。被害者である男性事務長の暴露会見により会社側の事件もみ消し工作が明らかになる一方、女性副社長本人の不誠実な態度により世論は一層硬化し、父親であるグループ会長の謝罪会見に至るも鎮火には至っていない。日本のマスコミも詳細に事件の推移をフォローしており、韓国の財閥を取り巻く否定的側面が広範囲に伝えられている。
1950年代から財閥形成始まる
ではこの財閥とは、一体どのようなものだろうか。大雑把に言って創業家家族による所有・経営面における支配、広範囲に展開する多角事業の推進という2つの特徴がある。この財閥、日本では第2次大戦後に断行された財閥解体により、戦前期財閥の歴史は閉じた。韓国では日本の植民地からの解放後、特に1950年代から財閥形成が始まり、1960年代以降、朴正熙政権主導の急速な工業化の中で急成長した。2015年、韓国にとっての戦後70年を迎えるが、その間多くの企業の栄枯盛衰が見られた。そして紆余曲折を経つつ韓国経済を今まで牽引してきたのが他ならない財閥である。 現在の状況は、比較的長い歴史を持つ財閥であっても母体企業の創業から70~80年といったところであり、創業家オーナーの世代は現在の2世代目から徐々に3世代目に移行しつつある。サムスングループ創業者の李秉チョル(※)(イ・ビョンチョル)、現代グループ(現在の現代自動車グループの母体)創業者の鄭周永(チョン・ジュヨン)、さらに今回の事件の主役である大韓航空を有する韓進グループ創業者の趙重勲(チョ・ジュンフン)などが活躍した1980年代くらいまではまさに創業者の時代であり、ダイナミックな企業家活動は日本でもよく知られていた。