コロナ禍で閉店も同じ場所で再挑戦 料理と家具でもてなすレストラン
地中海をイメージしたスパイスが効いた“味のマトリックス”
メインディッシュには、「但馬牛の炭火焼き カタルーニャディップ」(6500円)をぜひ。市場価値が上がっている経産但馬牛(けいさんたじまぎゅう)(*)を使用している。 * 経産牛とは、お産を経験した母牛のこと。繁殖の役目を終えて半年から一年ほどかけて食用牛として飼育し直す。霜降り肉とは違ったうま味が凝縮された味わい深い赤身牛肉に仕上がると、市場価値が上がっている。フランスでは、しっかりとした味わいと歯応えのある赤身肉が好まれることから評価が高い。 但馬牛の深みがあるおいしさもさることながら、入江氏の真骨頂が堪能できるのが、但馬牛の横に添えられたオレンジ色のディップだ。パプリカやラディシュピクルス、ハラペーニョ(メキシコ産の唐辛子)、パドロン(スペインの唐辛子)など、地中海をイメージしたスパイスが効いた“味のマトリックス”を見事に表現している。ちなみにカタルーニャは、スペイン北東部に位置するビーチリゾートで地中海に面した観光地の名称である。 なぜコロナ禍によって閉店した跡地で再び挑むことになったのか。同店エグゼクティブシェフの入江誠氏(いりえ・まこと、以下、入江氏)に話を聞いた。
英国ロイヤルファミリーが使用するはずだった個室バー
2018年にオープンした「STELLAR WORKS Restaurant」の前身、ヨーロピアンフュージョン料理を提供するレストラン「ARBOR(アルボア)」では、入江氏がエグゼクティブシェフを務めていた。店はどんな状況だったか。 入江氏:オープン当初は会員制だったため、訪問客の数は限られていたが、その後、一般のお客様に門戸を広げてから来客数は増えていき、閉店前は連日満席で盛況となった。さらに東京五輪・パラリンピック(以下、東京五輪)で、英国チームのホスピタリティハウスに選ばれ、自分は専属シェフ就任が決まっていた。 ホスピタリティハウスは本来、五輪といった大規模な国際イベントで、開催国が他国の人々に魅力を伝えるために設けられる施設とされている。しかし東京五輪はコロナ禍で無観客などの厳しい制限が課されたため、選手たちの憩いの場として活用された。 現在の「STELLAR WORKS Restaurant」の個室バーは、東京五輪が通常通り開催されていたら、英国ロイヤルファミリーが訪れる予定で、英国王室関係者に、ロイヤルファミリー向けのコースメニューを3つ提案していた。その中の1つに、有名すし店の応援要請も入れていたほどだ。だが新型コロナウイルスが猛威をふるったため、全て夢に終わった。 すごい話だ。コロナがなかったら、ARBORにロイヤルファミリーが来店し、入江氏は彼らをもてなした数少ない日本人シェフになっていたのに、大変残念だ。 入江氏:実は18年に、ARBORは他国からもホスピタリティハウスとして打診をもらっていた。完成前の新国立競技場から近い大型レストランということが、大きなアドバンテージになっていたのだろう。ただ、英国から直接オファーをもらっていたこともあり、早々に英国のホスピタリティハウスになることを決められた。 東京五輪が1年延期となった。 入江氏:21年に東京五輪が開催された約1カ月間は、店舗内にBBCの報道フロアスペースを設け、英国のホスピタリティハウスとして稼働した。感染予防に気をつけながらの大会になったため、ホスピタリティハウスを設営する国は、我々が担当した英国をはじめ、わずか数カ国だった。