「マイナ保険証」“薬局グループ経営者”が語る導入の“実情”…「いま、現場で起きていること」とは
政府のPRと違う? マイナ保険証で実際に得られた「メリット」とは
マイナ保険証で実際に得られたメリットにはどのようなものがあるのか。政府はマイナ保険証のメリットとして「デジタル化による利便性」「なりすまし等の身分を偽っての不正利用の防止」等を挙げている。 しかし、X氏が挙げた「メリット」は、それらのいずれでもなく、知人の薬局で「同一人物による睡眠薬の複数回入手」が1件、発覚したというものだった。 X氏:「その患者さんは、別々の医療機関で診察を受け、その処方箋をもとに、複数の薬局で別々に『1日1錠服用・1か月分』の処方を受け、1か月あたり合計200錠を超える薬剤を入手していました。 マイナ保険証の場合、レセプト(診療報酬明細書)のデータが反映されるまで1か月以上かかるので、直近1か月半くらいの薬剤のデータは分かりません。今回はそれ以前の月のデータより、毎月にわたって複数回入手していたことがわかりました。 日本では、どこの医療機関に受診してもよいことになっているので、同じ症状で複数の医療機関に受診し、同一内容の処方箋を複数受け取ることができてしまいます。 このような薬剤の “不正な複数回入手”は、おそらく『お薬手帳』では発覚しようがないものです。デジタルデータだからこそ分かったことです。 ただし、こういうケースは極めて稀だと思います。ふつうは保険組合の側のチェックで発覚します。本件の睡眠薬は安価なものだったので、見過ごされた可能性があります」 このことは広い意味での「デジタル化によるメリット」「不正利用防止のメリット」と言えるかもしれない。しかし、政府がPRしてきている内容とはかなりのズレがあり、かつ、保険組合のチェック漏れも介在した異例のケースと評価せざるを得ないだろう。
政府がPRする「医療情報の共有」のメリットは?
では、政府がPRするメリットはどこまで享受できているのか。まず、「医療情報の共有」についてはどうだろうか。X氏は、薬局はともかくとして、医療機関の側での体制整備が間に合っていない実情があると指摘した。 X氏:「今、デジタル庁が、全国の医療機関で電子カルテ情報・電子処方箋情報を共有できるシステムを、来年の運用を目指して構築しています。 それが実現すれば、理屈のうえでは、たとえばAの医療機関が処方した薬の情報をタイムラグなしにBの医療機関で確認できるようになるはずです。 私たち薬局では、電子薬歴(※)を含め、調剤に関わるPCのシステムを導入していて、いろいろなところでDXが進んでいます。しかし、医療機関の場合、電子カルテさえ導入が進んでいないところもまだたくさんあります。また、仕様もバラバラです。 特に開業医においては、かなり高齢の方もいて機械の導入がされていないところもあるし、実際には相当長い時間をかけなければ統合が進まないのではないかと思います」 ※電子薬歴:処方歴・副作用歴・指導歴・疑義照会の内容等、調剤に関する患者情報を集積して電子的に記録したもの