ボルボ「V40」の新エンジンに見る未来戦略 モノづくりニッポンへの重大なヒント
モノづくり先進国の反撃
これまで技術的なポイントからフルライン4気筒戦略を見て来たが、実は経済面から見ると見逃せないのが先進国での雇用の創出だ。ボルボはこれらのエンジンの製造をスウェーデンのジョブデ工場に集中させて、部品調達や製造ラインの投資や維持コストを下げ、同時に顧客満足度を上げる目論みだ。 部品調達の集中化や製造ラインコストの一本化で、本当に途上国との労働コストの差を完全に埋められるかは何とも言えないが、メリットは他にもある。一般に部品の純粋な性能では途上国より先進国の方が高い。下請け部品メーカーの技術レベルに差があるからだ。例えば鉄板プレス部品なら強度も複雑な形状の実現技術にしても差はまだまだある。小規模でプレミアムな製品を作るにはむしろ先進国が適している面もあるのだ。 こうした一拠点集中型の生産方式は、いままで途上国の人件費コストにやられっぱなしだった先進国のモノづくりの反撃の狼煙になることは間違いない。車両の組み立てそのものが海外であったとしても、性能を大きく左右するエンジンなどのユニットをアッセンブリーとして輸出すれば輸送コストも削減できるだろう。東日本大震災以来、リスク集中を嫌って生産拠点の分散化を推し進めてきた日本のメーカーもこの方式が何かのヒントになるかもしれない。 トヨタやGM、VWの様な巨大企業ではエンジン製造を1か所に集中することなど絶対に不可能だが、ボルボの規模ならそれができる。そして安い労働賃金に押されて海外に流失しがちなモノづくりを、スウェーデン国内に留めて雇用を創出し、競争に勝ち残れる低コスト体質を実現する戦略なのだ。本当にそう上手く行くかどうかはまだわからないが、もしこれが成功すれば日本にとって大きな手本になるだろう。日本の中位以下のメーカーが、もしこうした方法を取れば、製造業の空洞化の流れを逆回しに出来るかもしれない。 (池田直渡・モータージャーナル)