ボルボ「V40」の新エンジンに見る未来戦略 モノづくりニッポンへの重大なヒント
フルライン4気筒戦略に到達するまで
今回特筆すべきは、これが1台のクルマのパワートレーン刷新という話では無く、ボルボ全体にとってパワートレイン戦略のグランドデザインを再構築する大革命である点だ。 ボルボは、小は「V40」から大は「XC90」までのフルラインを4気筒化すると宣言した。「なるほど」と言う人もいるだろうし、「何でまた」という人もいるだろう。しかし、その背景を見て行くと、もしかするとモノづくりニッポンにとっても大きなヒントになるかもしれない新しい考え方を始めていることに気づくのである。 そのために前提となるパワートレーンの大まかなトレンドの流れから説明を始めたい。Cセグメントまでのクルマはともかく、プレミアムDセグから上のクラスでは、その豪華で高級な商品性を担保するためには、2.5~3.0リッターの6気筒エンジンをラインナップに持つことが不可欠だった。 ボルボも70年代から80年代前半には、P(プジョー)、R(ルノー)、V(ボルボ)が提携して開発したPRV V6エンジンというカードを持っていた。しかしそのPRVも80年代後半には旧態化を免れず、プジョーとルノーに先駆けて、ボルボは新しい直列6気筒エンジンの開発をポルシェに委託し、V6から直6に順次切り替えていった。 FRシャシーの時代はそれで何も問題がなかったが、1990年代に入ってボルボでFF化の波が6気筒搭載クラスにまで及んだ時に問題が起きた。前述の様にボルボではすでに6気筒を直列に切り替えてしまった。ところが、横置きFFには、長い直列6気筒では搭載性に難があり過ぎる。後にボルボは例外的に6気筒横置きFFという曲芸をやって見せたが流石に後が続かなかった。 FF化に際して、ルノー/シトロエンやフィアットグループなど、競合他社の多くは横幅の短いV6で切り抜けたが、ボルボはそのフィロソフィーとしてそれを受け付けない。横置きV6は、衝突事故の際エンジンが車室内に押し込まれ、乗員に損傷を与えるからNGだというのがボルボの公式な主張だ。それ以前に適当なV6の手駒があったのかというのは筆者の個人的見解である。 確かにマッチ箱の茶色い部分を下にした様な形状で前後方向に薄い直列エンジンに対して、V型マルチシリンダー横置きはサイコロのように奥行きがある。これがフロントのクラッシャブルゾーンを侵食することも、また硬く重いエンジンが万一室内に押し込まれればリスクがあることも、理屈としては通っている。 だが、だからと言っていったいどうするのか? V6は安全性に、直6は搭載性に難ありとすれば、順当に考えて6気筒は諦めざるを得ない。かと言って4気筒では価格に見合った高級なクルマとしての商品力が足りない。例えばプレミアム戦略を諦めて、トヨタやフォルクスワーゲンといった大衆車ブランドとの価格一本勝負戦略を狙いたくても、スウェーデンの労働者の高コスト賃金ではどうにもならない。そっちへ行くならブランド価値を捨てて、途上国生産に切り替えるのはやむなしである。そして仮にその茨の道を選んでも、生産規模の違いはいかんともしがたく部品の調達コストからして勝負にならないことは目に見えているのである。 ボルボは、商品性と搭載性のバランスをギリギリですり合わせるため、前述の直6のシリンダーをひとつ切り取って5気筒に仕立ててこの難局を乗り切った。ちょうど1シリンダーあたり排気量は450ccが熱効率面から適正とする設計が普及し始めたこともあり、総排気量をシリンダー数の増減で決める考え方が広まりつつあった影響もあるだろう。2気筒、4気筒、6気筒、8気筒、12気筒という従来の設計概念から外れた5気筒エンジンは、話題に上るユニークなエンジンとしてボルボのプレミアムイメージを担ってきたのだ。ちなみにボルボのラインナップには6気筒もあったし、なんならV8もあったけれど、耳慣れない5気筒レイアウトにははっきりした差別化ポイントがあったのだ。