自動車技術者の年収「日米で最大6倍差」ある真因、トヨタの899万円が高いと思ったら大間違い
第2は、企業側の問題だ。日本の自動車メーカーも自動運転技術の開発・研究を行っているのだが、そのための投資額は、アメリカ先端的IT企業に比べれば、遥かに少ない。このため、人材が養成できていない。 国の豊かさを示す指標として最も頻繁に使われるのは、「1人当たりGDP」(GDPを人口で除した値)だ。これを見ると、2024年において、アメリカの8万5372ドルは、日本の3万3138ドルの2.8倍だ。 ところが、すでに見たように、自動車メーカの年収比較では、日米間の格差はこれより大きい。なぜだろうか?
1人当たりGDPの分子には、家計消費や企業設備投資など、支出面のGDPの計数が用いられる。ところで、支出GDPは、分配面の国民所得と資本減耗(減価償却)の和に等しい。そして、国民所得は賃金と営業余剰などからなる。 GDPに対する国民所得の比率も、国民所得に対する賃金所得の比率も、国によって差はあるが、さほど大きな差はない。だから、所得分布が日米で大差がなければ、技術者の給与格差は、1人あたりGDPの格差と大差がないはずなのだ。
すでに見たように技術者の年収に大きな差が生じてしまうのは、賃金所得の分配が、アメリカの場合には高度技術者に偏った形になっているためだと思われる。それに対して、日本の場合には、賃金所得が比較的平等に分配されている。 つまり、日本の場合には、高度技術者と一般的労働者との間で、あまり大きな年収格差がないのに対して、アメリカの場合には、格差が大きい。このために、先に述べたような現象が発生するのだ。 こうなるのは、日本の場合には、技術者と一般労働者との間で、生産性にあまり大きな違いがないのに対して、アメリカの場合には、技術者は、一般労働者に比べて、新しい技術の開発などの点で、生産性向上に大きな役割を果たしているからだと考えられる。
このような生産性の差がなくて年収の差だけがあるのでは、非効率的な賃金配分ということになってしまい、長期的な継続性がないはずだ。 つまり、先に述べたように、日本の場合には、一般的な労働者と技術者との間であまり大きな能力の差がないので、年収の差が小さい。そのために、日本では新しい技術が生まれないのである。 ■日本が新しい技術に対応できなくなった真因 高度成長期においては、新しい技術を日本で開発しなくとも、欧米諸国で開発された技術を日本に導入すればよかった。そのために、格別に高度の技術や知識が必要とされることはなかった。